1

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

1

 大学から車で20分ほどの所にある廃病院には、出ると噂の病室がある。  一際がれきの酷い東階段を上がったところにある、入り口もがれきで塞がれかかっている「手術室C」。車を止められる出入り口から一番遠いせいもあって、よく僕たちみたいな学生の定番の肝試しスポットになっている。 「……で、そこになんで僕一人で行かなきゃいけないんだよ」  月明かりも乏しい、廃墟の壁だったがれきに腰掛けて、僕はため息をついた。歓迎会だかなんだか知らないが、一年生の女子たちのついでと言わんばかりになぜか僕まで車に乗せられ、気がつけばここに一人。僕を車に乗せた副部長は、懐中電灯が足りないとか言って、なぜか女の子たちを車に乗せたままトランクを探し始めた。そうして見つけた一つの懐中電灯をなぜか僕に渡し、なぜか僕一人だけに肝試しを命じてきた。なぜか気の弱い僕は、断ることもできず東階段までようやくたどり着いたところだ。 「アイツはどうせ、肝試しなんかするつもりなかったんだ。何が手術室Cに置いたお札を取ってこいだよ。置いてなんかないくせに……ああちくしょう、ビビり副部長が調子に乗りやがって……」  何も置いてないのだから、どのみち僕は手ぶらで帰るしかないのだ。そうして何も持って帰ってこれなかったビビりな僕を馬鹿にして、代わりに行ったフリをした副部長が、ポケットに忍ばせたお札とやらを持って帰ってきたように見せるとか、どうせそんな魂胆なのだろう。  かといって、あまり早く戻っても嫌みを言われるのが目に見えている。空気を読め、だとかなんとか。人をダシにしておきながら、あんまりだと思う。こんなことのために退部届も破り捨てるのだから、そろそろアイツの本性を誰かに知らせたいところなのだが。 「……おいおい、はあ!?アイツまじで何考えてんだ……!」  崩れそうながれきをどうにかして階段を上りきると、廊下の窓があった所から走り去って行く車が見えた。間違いなく、アイツらだ。僕を置いて帰りやがったんだ!冗談じゃない、一体何考えてるんだ。女の子たちも止めろよ!  その場にしゃがみ込んで、深いため息をつく。車内での居心地の悪い空気を思い出していっそ、帰りの車でも同じ思いをせずに済んで良かったと自分を慰めてみる。夜更けに申し訳ないと思いながらスマホを出して、部長に事の顛末を連絡し、返事が来るのを待った。僕が戻ってくるのが遅すぎて、危ないから女の子たちを先に送ったとか、適当な言い訳をするのが目に見えている。あれもこれもわかっているのに、何もできない自分にも腹がたって仕方が無い。どうにかして一泡吹かせてやれないかと僕は、手術室Cに目を向ける。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!