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課題を終えた私は、小さくあくびをしてから、ノートパソコンをゲーミングデスクの端にどけた。ノートパソコンの画面の中では、まだのんびりと授業が進んでいる。
デスクの真ん中を陣取っているのは、去年の秋に買ってもらったばかりのゲーミングパソコンとモニター。開きっぱなしにしてあったディスコードを見ると、ちょうどゲーム友だちのハトポが『雑談チャット』に書き込んだところだった。
■ハトポ■ 今度のフィールドワークに行く人っている?
ディスコードはゲーマー向けボイスチャットサービスで、オンラインのフリースクールで出会ったゲーム友だちが、チャットやボイスチャットを昼夜問わず垂れ流している。
■ハトポ■ 俺さあ、近いから行ってこいって、勝手に親に申し込まれちゃって
フィールドワークに行く気がなかったから、開催地さえ把握していなかったけど、たしかハトポは私と比較的近いところに住んでいるはずだ。
スクールからのメールを確認してみると、フィールドワークの開催地は、私の住む名古屋市内にある名古屋市科学館になっていた。
世界最大級のプラネタリウムがある人気の場所ではあるけど、まさか東京や大阪を差し置いて、名古屋で開催されるなんて思ってもみなかった。
科学館、行きたいな。ハトポの他にも行く人いるかな。
ディスコードの動きを追っていたら、ドアをノックする音がした。――ママだ。
私は即座にディスコードを閉じ、ノートパソコンをモニターの前に引っ張り戻した。
「莉良、入るわよ。ちゃんと授業受けている?」
ピンクのトレーを手に、ママが部屋に入ってきた。トレーの上には、パステルピンクのチョコでコーティングされたドーナツがひとつと、デコラティブなマグカップに入ったカフェラテがのっている。
「ストロベリーのドーナツ、莉良も好きでしょ」
「うん、好き。ありがとう、ママ」
私はシンプルなドーナツのほうが本当は好きなんだけど、ママの中ではストロベリーのドーナツが大好きなことになってしまっている。
「今日は何の授業なの?」
ママがノートパソコンの画面を横からのぞき込んだ。
「3Dモデリングの授業」
ほら、と作ったばかりの3Dのクマを見せたら、トレーをテーブルに置いたママが「あら、かわいいわね」と言って、笑いながら私の顔を見た。
同意を求められているんだろうことは理解しているけど、私は曖昧にほほえんでおく。
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