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 私がまだ小さいころ、二階の部屋のひとつが物置きのようになっていて、部屋の隅に段ボール箱が詰んだままずっと置いてあった。  私はママが家事をしている間にこっそりその部屋に入り、中にあるものを見るのが好きだった。面白そうなものなんて見つかったことはなかったけど、ママに隠れて宝探しをしているみたいで楽しかったんだと思う。  あるとき、箱の中から電球形をしたガラスボトルを見つけた。頑丈そうな分厚いボトルの中は透明な液体で満たされていて、ねっとりした真っ黒なスライムのようなものが電球の底部分の蓋にくっつくように溜まっていた。  蓋を開けようとしたら、取っ手がついた蓋の上部だけが外れ、スライムが下に落ちていった。どうやら取りはずして使うものだったらしく、裏を見るとマグネットがついている。近づけたらスライムはハリネズミのように身体を尖らせた。   心が躍ったとでも言えばいいんだろうか。その奇妙な動き方に私はとても興奮して、時間も忘れ夢中でスライムと戯れていた。夢中になりすぎて、ママが部屋に入ってきていることにも気づかないくらいに。 「莉良、こんなところにいたのね。もう探したのよ。悪い人に攫われちゃったんじゃないかと思ったじゃない。勝手にこの部屋に入ったらダメだって前も言ったでしょ」  ママが不機嫌なのはわかったけど、それ以上に私は自分の発見をママに伝えたかったんだと思う。 「でもママ、見て! これすごいんだよ!」  駆けよった私が手にしていたボトルを目にしたママは、思わず後ずさりをしてしまうほど怖い顔をした。 「嫌だ。まだこんなの残っていたのね」  ママは私の手からボトルを取り上げ、乱暴にゴミ箱に放り込んだ。  私は慌ててゴミ箱に駆けよった。  良かった。割れていない。 「拾わないで。そんな気味の悪いもの、莉良もいらないでしょ? まさか好きじゃないわよね」  拾い上げようとしていた私は、振り返りママの顔を見て固まってしまった。それはまるで、汚いものでも見るような目つきだったから。  ママのそんな表情を見るのは初めてで、これを好きだとは絶対に言ってはいけないんだと思った。 「……好きじゃない。こんなのいらない」  私は嘘をついて、ゴミ箱から離れた。  本当は拾いたかった。だって、そのボトルはこれまでママからもらったどんなプレゼントよりも、ワクワクさせられたものだったから。  だけど言えなかった。好きだと言ったらママに嫌われてしまうような気がして。  いらないと言ったら、ママはいつものママに戻ってニコニコし始めた。 「そうよね。莉良とママはよく趣味が似ているもの」
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