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エレベーターを降りると、いつの間に投げ込まれたのかカラフルな風船を巻きあげながら、上り龍のような竜巻が発生していた。
「うん……すごいね。本当に魔法みたい」
「なあ、ライを車で送ってきていたのって、どっち。まさきさん? お母さん?」
竜巻のほうを向いたまま、フェネックが訊いた。
「まさきさん」
「お母さんとは相変わらずなんだ」
ため息まじりにフェネックが言った。
「叔父さんに連絡はあったみたい。フィールドワークのお金は振り込んであるから行かせてくれって。でも、私には会いたくないみたいでさ」
明るく言ってみたつもりだったけど、フェネックの眉が一層ハの字に下がっただけだった。
「じゃあ、しばらく叔父さんの家にいるわけか」
「わかんないんだよね。……叔父さんとまさきさんの話を聞いちゃったんだけど、まさきさんは私のお父さんらしくて」
フェネックが今度は怪訝そうに眉を寄せて、こっちを見た。
「いや、おかしいだろそれ。まさきさんは女だったはず」
「まさきさんは、私が生まれたときは男性として生活していたみたい。今も戸籍上は男性のままだけど、見た目も完全に女の人だし、女性として生活しているから、私まったく気づかなかった。たしかに声も低いし、背も女の人にしては高いんだけど」
「……ああ、MtFってことか」
しばらく考え込んでいた様子だったフェネックが、ようやく納得がいったという様子で何度か頷いた。
「そう。まさきさんは、トランス女性だと知って私がショックを受けるんじゃないかと心配して、明かさないつもりみたいなんだよね」
「ライはショックだった?」
「まさきさんが女性であることを疑ったこともなかったから、実はお父さんだったと知って頭が混乱した部分はあるよ。今もまだしているかも。でも、まさきさんは私がこんなふうだったら良かったなと思っていたお母さんみたいな人で、私まさきさんに会えてすごく毎日楽しいの。だから、まさきさんがトランス女性だということに関してはあまりショックはないかな」
フェネックにまさきさんのことを話したのは、聞いても嫌なことは言わないだろうと思ったからだ。
私たちのいるフリースクールには、普通からそれている人がたくさんいる。いじめで学校へ行けなくなっただけじゃなくて、親の都合で海外に住んでいる子とか、何かしらの特性を抱えていて学校が合わない子とか、私みたいに家庭内に問題を抱えている子とか。
同じくらい多いなと感じるのが、LGBTQのどれかにあてはまりそうな子だったりする。フェネックグループの中にも、一人称が俺で性別は言いたくないという子がいたり、迷っているという子がいたりするから、普通に中学に通っている子たちよりも比率的には多いんじゃないかと思う。
私たちは性別に囚われず、相手の呼んで欲しいという名前で呼ぶし、その子の気持ちに沿った性別だと考えて話をする。友だちの悩みだから、私たちにとってそれはとても身近な話で、ドラマや漫画の中の話じゃない。
とは言っても、長年想像していたお父さんが、女の人になっていたというのは、予想外過ぎて戸惑っていないとは決して言えないんだけど……。
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