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「私、ママからね、お父さんはいないんだと聞かされて育ったんだ。だから、まずお父さんが存在していて、私のことを気に掛けていてくれたことは、本当に嬉しいの。私のことなんて、知りもしないんだろうなって思っていたから。今、私がいる部屋も、まさきさんが私のために用意してくれていた部屋だったみたいなんだよね」 「まさきさんも、ライに会いたかったってことか」 「そうみたい。そういうのを聞いちゃったら、ずっと会えなかったことを責める気持ちになんてならなくなっちゃうよね。会えなかった理由も、ママが会うのを禁止していたせいだったみたいだし」 「それなら、聞いちゃったんだって正直に話してみたらいいんじゃない?」 「問題は多分まさきさんに会うことを、ママが許さないということなんだよね。叔父さんの話からすると、ママはまさきさんに騙されたと思っているし、精神的な病気だとも思っているの。私が髪をショートにしたりこういう服を着たりすると、まさきさんみたいになると本気で思っているんだよ」 「それはなんていうか……」  フェネックは、理解ができないなというように首を捻った。 「恥ずかしいよね。いつの時代の人って感じで。私、まさきさんとの件を知って、ママのことがますます好きになれなくなっちゃった。ママと話をしなきゃいけないと思っているんだけど、わかってもらえるとは思えなくて」  フェネックは腕組みをしながら手摺に体重をかけた。 「もし、ライのお母さんがトランスフォビアなんだとしたら、そう簡単に解決できるものじゃないんだろうな。そうじゃなくても、離婚している夫婦がわかりあうのは難しそうだし」 「そうだよね……。ありがとう、聞いてくれて。話したら、心の整理がちょっとついた気がする。私、理工館にどうしても見たいところがあるの。プラネタリウムの時間までには連絡するから、それまで自由行動でもいい?」 「ん。俺は極寒ラボのマイナス三十度の世界に行ってくる」 「いいね! あとで感想聞かせて」 「冷凍フェネックになってなかったらな」
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