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五階へ上がっていくフェネックを見送ってから、私は四階のフロアを歩き出した。
科学原理とのふれあいという展示ゾーンになっていて、音や光、磁力、重力など理科の教科書で見るような本格的な実験装置が並んでいる。
まさきさんの言っていた磁性流体の実験装置は、ちょうどフロアの中央あたりにあった。
木製の円台の上に特大のシャーレみたいなものが乗っていて、中に真っ黒な磁性流体がたっぷり入っている。シャーレの真ん中には円錐の突起があり、磁性流体でコーティングされているのか真っ黒だ。
実験スタートという黄色のボタンを押すと、一瞬にして円錐に張りついていた磁性流体が落ち、金属の肌を見せた。一度離れた磁性流体はトゲを作りながら、円錐の金属をじりじりと上り、覆いつくしていく。まるでひとつひとつのトゲが生き物みたいだ。
すべて覆いつくしてしまうと、私は待っている人がいないことを確認してからもう一度ボタンを押し、磁性流体の不思議な現象を眺めた。
スパイク現象は、磁石の磁力線に沿って集まろうとした磁性流体が、互いに反発することでできるらしいと、解説のところに書いてあった。
現象を理解しても、やっぱり不思議に思えるし、ドキドキする。
ふと、車の中でまさきさんが磁性流体を作ったことがあると言っていたのを思い出した。小さな電球型のボトルに入れた磁性流体、私も見たかったな。
あれ、そういえば電球型のボトルに入った磁性流体って……私が小さいころに見つけたものと同じだ。そっか、あれはまさきさんが作ったもので、家を出て行ったときに忘れて行ったまま、あの部屋の段ボールの中に残っていたんだ。
私、ずっと昔にまさきさんに近づいていたんだ。だから、ママはあのときあんなに怖い顔をして怒ったんだ。
ママが追い出そうとしたまさきさんは、それからも私の心の中に残り続けていたことになる。私が私らしいと感じていたのは、ママが必死で消そうとしていたまさきさんの気配だったんだろうか。
やっぱり、私はあのときママの捨てた磁性流体のボトルを拾うべきだった。それで、私はこれが好きなんだというべきだったんだと思った。
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