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「莉良が、姉さんとふたりで話がしたいと言っているから連れてきたよ。あれから一週間経ったしね」  インターフォン越しに公晴くんは言い、ママの返事がある前に私が持っていた鍵で玄関の扉を開けた。  七日ぶりに帰ってきた家なのに、懐かしいというよりも落ち着かない気分になるのが悲しい。ママが連絡をくれていたら、懐かしいという気持ちで帰ることができたんだろうか。  公晴くんの隣に立ち、ママを待っていると、あの日ママに投げかけられた「出て行って」という言葉が蘇ってきた。結局ママからは、戻ってきてという連絡は来なかった。  がっかりしなかったわけじゃない。だけど、自分の中で結論を出すためには良かったのかもしれない。どんなに私が望んだとしても、ママは私が自分らしく生きることを決して認めてはくれないんだということがわかったんだから。……なんて、ただの強がりかもしれないけど。  あの日、公晴くんのお店に髪を切りに行った私は、こんな大ごとになるとは少しも思っていなかった。公晴くんに「莉良は姉さんとの関係を変えたいと思って、切ることにしたの?」と訊かれても、曖昧な答えしか返せなかったのを思い出す。  あの時の私は、ママに捨てられるくらいなら、公晴くんと過ごしたり、ネットの世界を通してライとして生きることで息抜きができているのだから、家では自分を押し殺していたほうがいいんだと思っていた。だって、私にはママしかいないと思っていたから。  だけど、今は違う。ママから離れ、公晴くんとまさきさんと過ごしているうちに、これまでどれだけの自分を殺してきてしまったのかということに気づいてしまった。  何度もママとの暮らしを振り返り、なんとか妥協点を見いだせないかと考えたけど、ママとの暮らしの中に本当の私は少しも見つけられなかった。そこにはママが望む作られた莉良がいるだけ。  たった一週間。人生を変えるほどの時間じゃないはずだった。でも、私はまさきさんの存在を知ってしまった。いなかったはずの人が、今は私のそばにいて、私を理解し受けとめてようとしてくれている。どうやっても、まさきさんと出会う前には戻れそうにない。  それでも……かすかな期待をしている私がいる。ママが理解を示してくれるんじゃないかって。だって、どんなママでも私にとってはたったひとりのママだから。 「突然ね。来るなら来るって、先に連絡をしてくれたらいいのに」  リビングの扉を開けて出てきたママは、不機嫌そうに公晴くんに向かって言い、私の姿を見て顔を顰めた。
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