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「ママ知っている? 私が夜空を見るのが好きだって。ずっと科学館に行きたかったって。科学者になるのが夢なんだって。私がフリースクールのみんなにライって呼ばれていることや、友だちがみんな男の子ばかりだって。知らないでしょ。ママは私のこと何も知らない。だって、知ろうとしてくれなかったから。そんなのやめなさいとか似合わないとかばかり言って私から好きなものを取り上げて、代わりにママの好きなものを……ママの理想の娘を押しつけたんだよ。ずっと、ずっとそうだった。私がどんなに苦しかったか、ママは知らないでしょ!」 「何で私が悪いみたいに言うのよ……。私がまさきのせいでどんな思いをしたか、あなたは知らないからそういうことが言えるんだわ。騙されて結婚したせいで、どれだけ恥をかいたか」  ママはとても傷ついた顔をしている。事実ママはまさきさんからカミングアウトされて、傷ついたんだろうし、今も傷ついているんだろう。自分にとっての真実しか、受け入れられないくらいに。 「知らない。だってまさきさんのこと、ママが隠してきたんだよ。いないことにして。私、ずっとパパに会いたいと思っていたの。どこかにいるのなら、私のことを知って欲しいと思っていた。ママ、気づかなかった? 何度か聞いたよね、パパのこと。でも、ママは一度だってちゃんと話してくれたことがなかった。だから……私、ママには同情できない」 「あんな父親なんて、いないと言われたほうが幸せでしょう。私はあなたのためを思ってそうしたの。わからないの?」  ママも泣きそうな顔をしている。私だって泣きそうだ。 「ママも辛い思いをしたんだろうから、私がまさきさんのことを好きなのを理解してとは言わない。だけど、私から取り上げないで。これからもまさきさんと会うのを許して欲しいの。お願い」 「……そんなにまさきがいいなら、まさきの元にでもどこにでも行ったらいいじゃない。あなたなんか、もう娘でもなんでもないわ」  ママはどこからそんな低い声が出るのかと思うくらい、冷たく低い声を出した。  公晴くんが何か言おうとしたけど、私は手で遮った。  これから先、どんな未来が待ち受けていても、公晴くんのせいにしないよう、自分で決めたかった。  もう言ってしまったら戻れないと思うと、喉がギュッと締まってしまう。 「わかった。私……、この家を出て行くことにする」  声が震えていたし、掠れてしまったけど、言葉にしたら自分の気持ちがはっきりしたように思えた。
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