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「ママが出て行けと言ったからじゃないの。私がもうママとは暮らせないと思ったから。本当はね、ママに今の私を好きだと言って欲しかった。莉良はどんなふうでも莉良だから大好きだって。大好きなママだからこそ、一番私のことを理解して欲しかったよ。きっと、まさきさんもそうだったと思う。いつかママがわかってくれたらいいんだけど……難しいのかな」  泣かずに言おうと思ったのに、涙が零れてしまったから、私はグイッと手の甲で拭った。 「ママの理想の娘でいられなくてごめんなさい。これまでありがとう。さようなら、ママ」  深く頭を下げたあと、私はすぐに向きを変えて、ママの顔を見ずに玄関の扉を開けた。  振り返ったら、ママに駆け寄って縋ってしまいそうで、なんとか足を動かして外へ出た。  後ろでバタンと扉が閉まった音が聞こえた。  一歩、二歩、三歩と離れていくたびに、ママとの距離が開いていくんだと思うと、胸が張り裂けそうになる。  でも、今日を逃したら、私はもうママから離れられないように思えた。そうしたら、私もう変われない。だから、なんとか足を動かした。  外に出たあと、ママが私の名前を呼んだ気がしたけど、きっと私の心が求めた空耳だったんだろうと思う。扉は開かなかったから、聞こえるはずないもの。  なんとか公晴くんの車までは泣かずに歩こうと思っていたのに、次々と涙が零れてきてしまい、足がもつれてしまった。  扉が開いた音がして、ママの声が聞こえてくるのを待ってしまったけど、私の名前を呼んでくれたのは、公晴くんだった。  駆け寄ってきた公晴くんが立ち止まってしまった私の肩を抱いた。 「一緒に家に帰ろう」  その言葉は温かく、同時に悲しくもあった。
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