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「莉良の荷物とかは後日、まとめて送ってもらうことにしよう。引っ越しトラックになるだろうけど」
さんざん泣いて、ようやく涙が止まった私の頭をぐしゃっと撫でながら、公晴くんは言った。
車がゆっくりと動き出し、生まれたときから住んでいた家が後ろへと遠ざかっていく。この前は、また帰ってくるものなんだと疑いもしなかった。
でも今は違う。私は次にいつここに帰ってくるんだろう。まさきさんも公晴くんもママに会うことを止めたりはしないだろうけど、私自身がママと会ってもいいと思える日まで、時間がかかるような気がした。
「さ、莉良が帰っちゃって、やけ酒でも飲んでいそうな人に会いに行きますか」
公晴くんは私を気遣ってか、いつもより明るく振舞っている。
「うん」
「きっと驚くだろうけど、泣いて喜ぶと思うよ。まさきさんは」
「そうだと……いいんだけど」
「保証する。僕はね、案外この三人暮らしが気に入っているよ。悪くないと思う。莉良はそう思わない? 少しずつ家族になっていけるんじゃないかな。僕もまさきさんも莉良を必要としているからね。莉良もそうでしょ」
私が目を擦りながら頷いたら、公晴くんが肩を抱き寄せた。
家族。私も、まさきさんも、公晴くんも、誰も持っていないのに、三人集まったら家族になれるんだと思ったら、なんだか可笑しい気がした。
「おかしかった?」
「ううん。嬉しかったの。公晴くん、ありがとう」
まさきさんの家に着いたら、ただいまと言おうと思った。
たくさん話したいことがある。失くなってしまった磁性流体の話とか、今日見たプラネタリウムの星空の話とか、まさきさんと本当の家族になりたいという話とか。
誰がソファベッドで寝るかという相談もしなくちゃいけない。
だけど、話すのはゆっくりでいいのかもしれない。これから一緒に過ごす時間は、きっとたくさんあるんだから。
まずは言おう。まさきさんのことが大好きだって。何より今、一番伝えたいことだから。
「私になりたい」Fin
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