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 莉良はママにそっくりね。  好みが一緒で良かった。  莉良とママは姉妹みたいね。  ――ママのそういう言葉は、ずっと私を縛りつけている。  私はママと同じじゃなきゃいけないんだって。ときどき、私はまるでママのお人形さんみたいだと思ってしまう。  本当はママと私はまったく好みが違うんだと思う。ママは私のかっこいいと思うものがだいたい好きじゃないから。  いつもそうだ。ランドセルだって、私はNASAの技術が使われていると書いてあった濃いブルーのが欲しかったのに、そんなの男の子みたいだからやめなさいと言って、薄いピンクにバラの刺繍が入ったのになった。私はみんなにかわいいねと言われるたびに、私が選んだんじゃないという言葉を呑み込むしかなかった。  そうこうしているうちに、だんだん私は先回りしてママの好みそうなものを選ぶようになっていった。あえてそうしたというよりは、そのほうが悲しくならなかったから。  私がこれがいいと選ぶと、たいていママは悪く言ったし、嫌な顔をした。好きなものを否定されるのは、私自身を否定されているみたいで傷つく。だから私はママの意に沿う答えを常に用意するようになったんだと思う。  ボトルに入っていたものが磁性流体という名前だと知ったのは、四年生の社会見学で訪れた『でんきの科学館』でのことだった。  電気に関係がある実験装置がたくさんあって、どれもすごく楽しかったけど、磁性流体の実験装置を見つけたときは喜びに震えてしまった。だって、また出会えると思っていなかったから。  ママの望む莉良を演じているうちに、私は私がわからなくなってしまっていたんだと思う。だけど磁性流体を見たとき、心の奥底にまだ本当の自分が隠れていたことに気づけた。  その日からだんだん私は、周りに求められる莉良の姿と本当の自分との違いに悩まされ、他人と接するのを苦痛に思うようになっていった。  もし、初めて磁性流体を見つけた日、ママに反抗してボトルを拾っていたらどうなっていたんだろう。私は今、私らしく過ごせていたんだろうか。
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