プロローグ

1/1
前へ
/13ページ
次へ

プロローグ

西暦2022年12月24日。 年の瀬も迫りつつある人類世界の中で、その事件と呼ぶべきなのか、事故なのか、不測の事態は突如として発生するに及んだ。 季節は、………冬。世間では、クリスマス・イヴを迎えており、民衆は浮足立っている最中ではあるのだけれど、パティシエと言う職を選んだボクにとっては、その職場となっている製菓店の中では、忽ち、戦場を吹き抜けて行く嵐となる!………と言われても、過言では無いのかも知れない。 甘い香りに引き寄せられて、至る処の製菓店では口々にクリスマス・セールを隠れ蓑としながら、誰もが金の猛者となっている始末。クリスマスの意味も知りもせず、単なるお祭り騒ぎだと妄想癖に取り憑かれて、エゴイズムに囚われている輩の中で、仄かに香るエンゼル・クリームを泡立てているボクの姿が其処には存在していた。 その忙しさの余りに放心状態となり掛かりながらも、ボクは思わず厨房の中の壁に掛けられてある日めくりカレンダーに目をやりながら、心の中で呟いた。 (………百合子の奴、今頃、何処まで来てるのかなぁ。今年こそ、プロポーズしようとは思ってるんだけど。。。) …………………………………………。。。 ボクの名前は、習志野悠人。九州は熊本県から東京都武蔵野市へと疎開して来てから、早くも3年が経つ。………だなんて呟いてしまうと、何だか大袈裟な迄に聞こえてしまってるのかも知れないけれど。一体、何時の時代の噺なのかしらね。 …………………………………………。。。 詳しくは、………数年前。度重なる地震の影響で、今迄暮らして来たアパートが全壊してしまい、住まいを失って途方に暮れていたその頃のボクに手を差し伸べてくれたのが、高校時代のクラスメイトのひとり、虹谷百合子だったのだけれど。 「………東京の町に親戚の叔父さんがいて、部屋を貸出してるらしいんだけど、もし、悠人さえ良かったら、叔父さんに電話で頼んでみようか?」 「…………………………………。。。」 何時の日か、東京の町の劇場で、旗揚げ公演してみたい!………高校時代は演劇部で勤しんでいたボクの想いを、その傍らで聞いていた同じ演劇部員である百合子の口利きで部屋を借りられる事となったボクは、不動産業を営んでいた彼女の叔父さんが経営している製菓店でのアルバイトの傍ら、近頃になって旗揚げした劇団のメンバーの中でシナリオライターとして活動しながら、その頃のボクは生計を立てているのだった。 ……………………そう。 忘れもしない、西暦2022年12月24日の14時28分を過ぎた頃。あの不測の事態を迎える前までは………。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加