3話

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嫌いな匂い嫌いな口、名前も顔も知らない男に自分と兄の違いを淡々と聞かされるのは相手に嫌悪しかいだけない。 誰にものを言っているのか。兄との差なんてとっくに知っているし、残念ながら生まれてきて同じだと一度も思ったことがない。 なんならすべて同じだというなら、願ったり叶ったりだ。 「チリちゃんの方が可愛いよ。」 ねっとりした息遣い、そして全身を舐めまわすかのようにチリの肩を掴む。 気持ち悪い、反射的に手を払おうとしようとしたがここがオーナーもいる席だということを思い出して、出した手を引っ込め。 「すいません、わたし少々酒に酔ったみたいでお手入れ行ってもいいですか」 「えっ……あー」 男がなにかを言いかける前にチリはすっと立ち上がり、即座に席をのき個室を出た。 トイレに向かう途中、掴まれた肩をパッパッと埃がついたかのようにはく。 「無理だって」 独り言をつぶやいて。 「かえれない……」 どうしようか、チリはトイレに特に用はないが引きこもり、洗面台に突っ伏した。 あの席に帰れば確実にあの男は同じような事を繰り返し、時間が経つにつれてどんどんエスカレートすると予測できるほどに何度も味わってきた同じパターンだと。 後事を思うだけでチリは気分が落胆する。 帰る言い訳も思いつかないし、と言ってもあそこに帰るのも嫌だ。 武彦に助けを求めるか……いや助けを求めたら何を頼まれるか後がこわいし、自分で追い払うか。 でもあの男が上客だったらどうしようか、後の仕事に影響が響くかもしれないという不安が尻込みして足の出し方を迷う。 「誰でも良いから助けて欲しい」 「助けてやろうか」 「えっ……」 チリが誰もいないと思って発した言葉が、返ってきたことに驚き振り向くとそこには真黒な影のような人間が立っていた。 腕を組んで堂々とする影は、黒いジャケットを身に着け全体的にシンプルなスタイルだが妙な威圧感を漂わせている。 服装は単調だというのにいつもどおりカッコイイなとか、そんな惚れる状況ではないのにチリはどうでもいいことが脳裏に浮かぶ。 「助けて欲しいて聞こえた気がしたけど?」 「なんで……東藤さんがなぜここにいるんですか…… ここにいると思わない人物、東藤がチリの目の前で普段と変わらず笑っていた。
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