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「なにか訊かないのか」
「今はとてもじゃないですが無理です」
「そう」
ビルが立ち並ぶ夜の大通りを車が走る。そして外の騒がしさの反面に静かな車内、運転する東藤は訊いた本人だというのに興味がなさそうに返事を返す。
じゃなぜわざわざ聞いてきたのかとチリは不思議に思いつつ外を見つめる。
店では足立と別れ、ほぼ無理やりに東藤の自車に押し込まれた後だった。
降りる事ができない時間、チリは思い悩む東藤に訊かないのかと問われたが、いつの間に足立と会話はしたか、厄介事ってなんですか、仕事はどうしたのですか、まだまだ山ほど訊くことがあって質問攻めをしてしまいそうで口を閉ざす。
無言の二人、体感にしては長い時間の帰路に後部座席から着信音が鳴り響く。
「東藤さん、電話が鳴ってますよ」
「知ってる。残念ながら俺は運転中でれない」
自分のではないし放置しておくかとチリは再び外を眺めようとしたが、その着信音は長く続き、一回切れたと思えば再びかかってくる。
鳴りやむことがない電話、どこかに車を止めて電話に出ればいいものの東藤は一向にハンドルから手を離さなかった。
誰か分かっているから電話に出たくないのかとチリは気づき電話を避ける男に目線を向けるがそれでも知らないふりを通す。
「東藤さん、でてもいいですか」
「そうしてくれ。」
はなから自分に出させるつもりだったなと、呆れて深くため息をつく、そしてチリは後部座席にある携帯を手にした。
「はいもしもし。」
「東藤!いま貴方どこなの!」
怒りに奮闘した女の人の怒鳴り声は耳がつんざきチリはすぐさま携帯を耳から避けた。それを横で聴いた東藤はこわっと呟いては意地悪そうに笑う。
「あなた分かってる。これは仕事なの!抜け出したなんてほんとにあり得ないから!」
「はい、すいません。東藤さんに代わりまして謝罪します。」
「……ってあれ、誰?」
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