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すると横から手が伸びてきたと思えば、千紗が先ほど雑誌を手に取り、パラパラと流しながらページをめくる。
「東藤の事になると途端に嘘が下手になるね。好きになるのも分かるけど、お兄ちゃんとしてはほどほどにしてほしいな」
「だから、そんなじゃないって言ってるだろ。東藤さんとはただの知り合いで、ただの千紗の友達で……好きとか嫌いはない……」
「分かったから、とりあえずご飯買いに来たんだし買って帰ろ。ほらお土産もあるし」
持っていた袋見せる、中身はタッパーに詰められたお惣菜、と明らかに千紗の好みだと分かる安物ワインが二、三本ほど紛れていた。
千紗は甘い顔に似合わず酒豪である。一度二人で飲み合った際に、千紗の方が空けた本数が多かったのにも関わらず、先に倒れてしまったのはチリの方だった。
翌朝の二日酔いは酷いもので、千紗との飲み合いは二度としないとチリは固く誓うほどに。
「お土産にしては偏った物あるけど」
「当然、今日はチリの所に泊まる気で来たんだから」
「お前はなんでそんなお気楽なんだか。」
「いいの、今日は飲みたい日なの。早く帰って蓋開けよ。」
ふわりと髪が揺れると無邪気に笑う千紗、幼い顔も相まってさらに心の純粋さを際立たせる。
人はこれを可愛いって言うだろうかと、チリはふと思う。
何時まで経っても変わらない透き通った綺麗さ、どんな困難に立ち塞がろうとどんなに傷つけられても真っ直ぐと歩いて行ける強さ。
その強さを持つこと出来なかった俺は誰にも期待に応える事出来なかった。この人の弟なのになんで俺はこんなにも醜くて弱いのだろうか。
もし千紗がいなかったらこんな劣等感も感じすそこはかとなく上手く生きれたのだろうか。兄に対してじゅわりと黒い煙が広がるような邪な感情が溢れてくる。
拳を握りしめるチリは窓に映る自分の顔を見ることは出来なかった。
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