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東藤は残念ながら、世に言うイケメンに分類する。
しかも平凡とかけ離れたルックスと優しいけれど大胆な性格は相まって、それはそれはどこ行っても男女共に自然と集まり、皆の中心になるような存在である。
街を歩けば逆ナンパなんて日常茶飯事。
歩るけば男達のハンカチをすり潰してしまうほど嫉妬に燃え上がるような光景が直ぐに広がるのだから。
色んな人に囲まれる彼に、俺はまた違った嫉妬が湧き上がるが……
そんなこんなで、何故か完璧超人は俺の一緒に夜を共にしてくれる友達である。
夜の友達を始めたのはチリの方からだった。東藤がふらりと歩いているところをチリが捕まえて言葉で誘った。
そう全て自分から始めた事、今更告白したところで目を丸くされて『無理』と縁を切られるだけだろう。
そして、チリが伝える事を億劫とさせるのは本命でない者達が玉砕していく光景を何度も見てきたからこそだ。
もし彼に振り向かせたいなら出会いから、人生からやり直さないといけないほど、もう終わっている恋なのだと、自覚はしている。
「バーテンダーさん、ため息なんてどうしたの」
顎膝ついてカウンターに座る、俺と似た顔がこちらを伺う。
チリとは顔つきなど形はよく似ているが、カウンターに座る若い男の方は眉の垂れ下がる甘い顔とチリより一回り小さな身長は、クールな装いのチリより可愛い印象が濃く残る。
可愛い、純粋、頭を巡るチリ、握っているシェイカーを振る手すら止まるほど落胆した。
「お前は悩みごと無さそうでいいよな。」
「チリ、それどう言う意味。そんなこというなら、もう聞いてやんない!」
ぷくりと頬を膨らませ怒る無垢で可愛い人は、千紗という名の俺の兄だ。
今日はバーの客として来てくれていた。
チリと千紗、一個違いの兄弟。
そして顔も似ているともなれば、当然のことながら家族から友達から知り合いから色んな所で比較されてきた。
千紗は可愛くて優しい、チリは美人でクールとか何かにつけて2人を比べては、どっちが良いとか言い始めるのがセオリーだ。
お互い、違う人間なのだから違いがあるのは当たり前だろと思うが、周りは2人の違いについて話題は止む事は無かった。
そんなことどうでも良いと思っていた筈のチリにあの男東藤の一言が落雷を落とす。
『俺、可愛い方が好きなんだよな』
いつだったか忘れたが、それを言われた瞬間チリは絶望の淵に立たされたのだ。
自分が可愛いとかけ離れていることに絶望したのではなく、誰を言っているか分かってしまったからだ。
嘘だよ。きっと聞き間違い。
最初は嘘だろと決めて疑心暗鬼だったが、アレを前にした彼の仕草に行動を観察する内に、確信へと変わる。
そして、やっぱりと再び地獄に突き返された。
この人の本命は『千紗』なのだと。
だから、俺たちの『違い』をこの時始めて憎んだ。
「チリは思い詰めると、変な方向に進むからお兄ちゃん心配だな。
今はいいけど、本当にダメになったらお願いだから話してね」
困った顔、俺が振る舞ったお酒を千紗はゆっくりと飲み始めた。
東藤はなぜ千紗を好きになったのか、そんなの訊かなくても分かる。
人に気がつかえて、怒る時は怒って、褒める時は全力で褒めてくれて、慰めてくれる時はうんと甘やかしてくれる天使なような人。
そんなの傷負った人間が看護師を好きにならないなんて、人を食った悪魔にしか出来ない無理な話だ。
この人には勝てない、そう悟ってしまった。
とっても優しい兄さん。
その優しさが俺の首を締めているなんて、知らないだろうけれど。
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