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迷いの森だと知っていたのに、綺麗だと思って奥まで入り込んだのが運のつき。
外からずっと眺めていればよかったのにと、悲しそうに誰かが俺に呟いた。
チリは空高くまで立つ高層マンションを見上げ、東藤との財力の差をまざまざと見せつけられている。
いつも見ても凄さに圧倒されるとここに来るたびに見ているはずの建物は毎回入ることに気が引ける。
千紗が泊まった日から5日後、今日その日東藤に会いに行く予定だった。
いつもなら尻尾を目一杯振って喜んで向かうのだが、残念ながらそんな気分に今回はなれなかった。
閉ざす心の中は、様々な感情が引き裂き間合い混沌と渦巻いていたからだ。
これからのこと今からのこと考えるだけで、底は見えず止まらなかった。言ってしまえば今までは東藤しか見えなかったが、悲しみに打ちひしがれる彼女、栗原を間近に見てしまったことで疑問が生まれた。
自分は東藤にとって一体なんなのか、友達、セフレ、それとも友達の弟、という単純なものを考えさせられた。
東藤が居る号室、そして目の前の黒く光るインターホン。そのボタンを押す指先がこれほど固くなったのは、初めて押した小学生以来だった。
落ち着いてから会おうと思った矢先に、東藤が服を取りに来いという誘いがあった。
会いたくないのと、服の用事なんてカモフラージュである事も知っていたから、当然断りの連絡を入れた。
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