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東藤は察しているのか、知らないのか
、忙しい筈なのにわざわざバーまで来て、服の入った袋を投げてきた。
それを俺は慌てて受け取ると、東藤が一言
『明日家来るよな』
である。
断る事もできただろうが、あの綺麗な笑顔を見せられたら断るにも断れなかった。
ただの脅しじゃんと小さく呟いた武彦の腕をつねったのは内緒だ。
ここで押すかどうか時間を使って迷っていても、最終的には押さないと来ないことを心配されるだけである。
そのあとになぜ来ないのか、地獄の問答が続くのなら早く押してしまった方がいいことは十分に理解にしているがこの扉の先に東藤がいるということを考えるだけで生ぬるい汗が体から吹き出し指先が震える。
考えたら駄目だ、心を無にしろと念じながら、チリはインターホンに触れる。
あれ?
俺は何を思ったかインターホンより先にドアノブを回してしまった。
ガチャと開くような音。間違えたかと思って、マンションの部屋番号を見直すが間違ってはいない。
「開く……」
ドアノブを押すと、難なくと扉は開いた。
施錠もされていない扉に嫌な予感を感じつつ、玄関に足を踏み入れた。
鞄に入れていた携帯の着信が鳴っている事を知らずに。
電気も付いていない暗い廊下の道の先にはリビングへと繋がっている。
いつもならリビングへの扉は閉まっている筈なのに、今日だけは無作法に開いていた。
そして何よりも、太陽があるといっても時刻は夕方、灯りとして乏しい筈なのに、リビングも電気はついてはいなかった。
おかしい。
それが友達、家族だったとしても誰かが訪ねてくる時は出迎え絶対に準備を欠かさないし東藤が、ここまで電気を付けていないのは可笑しい。
無警戒に鍵も開いていることも一度もない、不安を抱えながらチリは前に進むしか無く、暗い道を前進する。
まるで帰ってきたばかり……
「ねぇ、いいでしょ」
自分の目を疑いたくなった。
甘い声、ふっくらとした赤い唇に壺型の良いスタイルをした女は長く綺麗な髪を揺らしては東藤に抱き着いていた。
ほっそりとした綺麗な白い腕は東藤の首に巻き付け、肉厚がある胸を押しつけた。
2人はお互いに夢中なのか、チリに一切気付いてはなかった。
近づくな
「今日だけでも、全然良いんだよ。ほら」
ねっとりとした蜜のある声に耳を塞ぎたくなる。
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