6話

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6話

聡明な親をもち、なんでもできる兄をもつ自分は規律を守り懸命に頑張ってきたと思っていた。 完璧な世界。自分は出来る人間だ、耐えられる心があると何度も言い聞かせて、せっせっと休む暇もなく努力を積み上げた。 本当はそんな人間じゃないのにと思うたびに違うのだと横に首を振った。 けれど頑張って取り繕った薄い壁は所詮もろくそれはやがて大きな失敗へと繋がった。 それは高校受験の失敗 その失敗は絶対にやってはいけなくて、チャンスも一度きりだった。 親の期待を裏切り、兄は決して超える事が出来ないと知った日俺は絶望で何も考えられなくなって足元から崩れていく感覚は今でも覚えている。 黒くグルグルとした中身が回る中、誰かが「やっぱり千紗の方が優秀ね」と真実を告げる。 親は貴方は貴方なのだから言葉を気にしないでと口ではそういうが、親の表情はどこかぎこちなくもう仕方ないという未来を諦めた目を俺に向けた。 もう希望を持たない、けして言葉にしなかったが親は俺を見捨てたのだ。 千紗>の「次がある」「大丈夫」優しい言葉も全てが弱者にかける慰めのように感じ、失態、嫉妬に飲まれた俺は千紗の全てを拒否した。 格差を知っていた、出来ないことを知っていた、結果は目に見えていたのに、悔しさは収まる事を知らず涙が止まらなかった。
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