6話

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チリが酷く酔った日。 頬は赤く言葉もつたないチリはオーナーに少し休憩してきますと言い残してからスタッフルームに逃げるように入った。 そう言ったきりなかなか帰ってこないと不審に思った武彦。足元もフラフラ状態を横目で見ていたこともあり、まさかと思いつつチリがいるスタッフルームの扉を開ける。 予感は当たった。 チリは2人掛けのソファーで1人横になって伸びていた。 近づいても開かない瞼、気持ちよさそうな寝息が聞こえるほどにぐっすりと寝ている。 まじかよと、武彦は頭を抱えた。 「おい、チリ起きろ。起きろって」 この調子だと目が覚めても駄目そうだと今日はこのまま帰宅させた方が良い、そう思いチリの肩を叩くが目覚める気配はなく、ふんふんと機嫌の良さそうな鼻息は聞こえてくるだけ。 「おい、こら」 肩を叩く、起きない。 繰り返しても中々目を覚まさない事にすこしイライラしていた武彦が次に取った行動は上半身を起こしては前後ろに強く揺さぶり起こす。 「起きろって!こんなところで寝られると困るだけど」 「んっ?」 武彦の執念の揺さぶりは、目を覚まさない眠り姫という名の酔っぱらいを起こすことに成功した。 ゆっくりと瞼は開かれ眠そうな虚ろな目が武彦を映すと、目を擦りながらチリはゆったりと起き上がりソファー座る。酔いはまださめておらず、立ち上がるには時間がかかりそうであった。 「……武彦かよ」 「残念だったな、王子様じゃなくて。まぁでもその様子じゃ王子様も裸足で逃げだすだろうな。  で、体調不良ってオーナーに言っておくから今日は帰れ。お前このままだと朝まで眠りそうだし」 「……」 「おーい聞いてるか?てか一人で帰れるか」 「ふふっ王子様って、面白いこと言うなへへ」 目を細めへらへらと笑い出すチリに対し武彦は思わず顔が引きつる。 武彦はよく冗談めいたことを言うが、チリの対応はうるさいなどの罵倒が飛んでくるはずなのだが今日はからからと上機嫌で笑う。 いつも能面の様な無の冷たさは感じられず、別人のように様子がおかしい。言葉遣いもいつもの人を刺すような鋭く尖った綺麗さはない、だいぶ砕けていた。 「だいぶ酔ってるな」 「ふふん酔ってない、酔ってないよ。俺のね、王子様は昔からお姫様に夢中だから向かいに来ないんだアハッ。なんでだと思う、しりたい知りたいよな」
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