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「恐い!恐いから!話が通じてないな!」
「恐い?そんなこと言うなよ悲しいなぁ。ならホントの恐怖の味を味合わせてやろうか」
「あーー正気か!誰かっ助けて」
面白いことは一つもないのに道化のように笑うチリ、動作一つが武彦を戦々恐々とさせていた。
見た事のない荒れように戸惑う武彦をよそに、チリはなにかを思い出したかのようにふらりと立ちあがったと思えば真顔で帰ると言い出した。
まだ制服を着たまま、そしてなによりも鞄も持たずにフラフラと体を揺らし出口に向かおうとする。
「ちょっと待て。タクシー呼ぶからお願いだからそれで帰宅して」
「ダイジョブ、一人でかえれる」
「そんなフラフラで絶対無理だから」
平気だと言い張るチリはあっちこっちと足を向け軸はしっかりと定まっていなかった。
危ないバランスは見ている者をハラハラとさせ、武彦は手を差し出すがいらないと手をのける。
だが、その小さな衝撃でチリはバランスを崩し横へとチリは傾いていく。
そして、横にいた武彦を柱のような棒と勘違いしたのか、チリは棒に捕まるこどく武彦に抱きつき倒れることを防ぐ。
突然抱きつかれた武彦は目を丸くする。酒の甘い匂い、熱い体温が直に伝わる距離だった。
「チリさん、何やってんの。気色悪いんですけど」
「何って倒れそうになったから電柱に捕まっただけでっ?あは」
「いいから離れろ!俺はまだ仕事中なんだよ、酔っ払い相手してる場合じゃねーの」
「年下の癖に、生意気な。先輩を敬え」
「じゃ年上らしくしろや、離せ!」
「あはは、このままキスしてやろか。」
「まじでやめろっ俺が殺される」
チリの頭を手で押さえ離そうとするが全く離れないと思えば、息を吸うように抱きついたまま眠り始めた。
武彦の顔には苦渋の色が滲み、何を言っても無駄だと悟る。
「すみません、ありがとうございます。迷惑かけます」
「いいよ、流石に可哀想だし」
いつものオーナーの声、そして武彦にとって聞き慣れないハスキーな声が扉を開ける。
「えっ」
扉の方に向く、まず初めは印象は中身まで黒そうと思うほどの黒髪の男が部屋に入ってきた。
武彦が振り向くとカメラを向けられたモデルの様ににっこりと笑いかけてくるが、目がちっとも笑ってはいなかった。
「どっどうも」
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