6話

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「でお前の兄も来て、三人で相談して東藤は連れて帰った訳。そして俺は意味のわからないものに巻き込まれた訳だが謝罪してもらえるか?」 「嘘だ」 「おい」 あの日の真実を突きつけられたチリは易々と素直にそうなんだとは飲み込めず、恥ずかしさのあまり悶えるように頭を抱えた。 その次の日の様子がおかしかったのかと納得がいく。 ダダノトモダチだからと散々言ってきたのに矛盾する言葉に気分を害したに違いない、それはちがうと東藤はいつだって本気なると縁を切る。 偽物が本気になってはいけない暗黙の了解だったのにそれを自ら破り、あの日あの時にすべてがバレタのだ。 「俺的には信じる信じないどっちでもいいんだけどな。別に何かが変わることでもないし、改めて話してるのがアホらしいは」 「うそだ……いやだって」 「話を聴けよ。絶対にこうなるから話したくなった」 違うと否定的な言葉を綴るチリの耳には武彦の声は届かず、落ち着くまでは無理だと達観した武彦は頼んでいたアップルパイに噛みつく。 シロップにつけた甘いリンゴがグチュリとつぶれべたつくシロップが口元を汚していく姿は幼子のようであった。 「たく、なに脅えることがあるんだ。そのあと別にお前とあれとの関係が変わったわけじゃないだろ」 「……変わったから思い詰めているんだろ」 「へー変わってたんだ知らなかった。どこが変わったか分からんけどな」 「内情を知らないから言えることで……」 無関心な武彦に文句を言おうとしたがチリは口元に手をあて押し黙る。 俺がふられたからといって何が変わるのだろうか。 ふったことで気にかけた東藤は振り向いてくれるのだろうか、いやそれはない。 昔から友達という関係はあったかと言われると兄の友達であって、一緒に遊ぶ同級生のような友達ではなかった。 俺の一人の恩人、それを恋をした相手と呼ぶのはいささか無礼な気がした。 「そこにセックスがあるかないかの差だろ」 「ハッキリ言うな」 薄情者に先に口にされたが、そういうことだった。前から接点のない関係、だから東藤との関係は一つとして変わっていないと言いたのだろう。 「でも確かに何も変わってないとも言えるな。」 「だろ。有るか無いか日常の中ではすこし薬味だ。あれは劇的に変えたかったのかもしれないが結局は元は変わってないだ。 だからお前が悩んでるのはほんの小さいことであって、思い悩むことはない」 もうこれで納得しろと早く話を切り上げたい武彦は手の中にあったアップルパイを食べつくした。 薬味にしては口の中を痺れるほどにだいぶ辛いがとチリは思いつつ落ち着きながらコップをとってお茶を飲む。 仲良くなりたくて東藤を理解しようと必死に駆け回っていたが誰よりも自分が一番理解しようしなかった、その愚かさのつけが回ってきただけだと思う。 悲しい結末の話だと知っても、だから、やはり、ほんの少しだけ東藤に会いたいと思うのは気のせいじゃない。 武彦の言うように日常の延長線かもしれないが、小さな日常が元には戻らないと知っているから。 「結局は自分を一番理解してないのは自分なのかもしれないな」 最後を締める名台詞のようにカッコよくしみじみと述べる武彦。 「うさんくさ」 「ここまで相談のってくれて有難うだろ、普通は。」
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