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7話
初めて会ったのは、友達の千紗の家に数回ほど遊びに行った時だったろうか。
紹介されて愛想のない挨拶、訊かれても興味なさそう返事にそっけない態度は良く言えばクールとも言える。
まだ中学生という年頃、年齢相応と言ってもいいだろう。
友達の弟なのだから、別に愛想は無くていい。
けれど何を見ても空っぽの目はいつか壊れそうだと、初めてチリと会った日に東藤はそう思った。
東藤はその日から、たまにすれ違うチリに話しかけた。
話しかけたのはいつもの気まぐれ、仲良くなりたいとかではない。どんな反応するかなという好奇心。
チリは気怠そうに振り向くが、質問すれば毎回しっかりと答えてくるので根は真面目だ。
そして時より見せる暗い顔は何かを押さえているように見えた。
何回か、千紗に弟の事を訊いても、返ってくるのは普通な話で家族間で仲が悪いとか、トラブルがあったとかの暗い話は出てこなかった。
気分が優れないのはただ反抗したい時期なのかもしれない。俺の杞憂なのだろうとした矢先に、予想していた出来事は起きた。
まだ雪がチラチラとふる寒空の下。
バイトの帰り、お腹が空いたのでコンビニで菓子を買って帰ろうとした際だった。
コンビニに行くには公園を通るのだが、誰もいないはずの夜の公園の奥からすすり泣く声が聞こえた。
静かな暗い夜道、安全ないつもの道だと安心していても流石に肝が冷えた。
幽霊でもいるのかと気になって奥を見つめると、見知った学生服を着た薄茶の髪の男の子が目を擦って泣いていた。
聞いた事がある声、それがチリだと分かり、学生服と言っても凍える寒さの中で薄着の格好のままベンチに座っていた。
落ち込んでいて薄着の知り合いを寒空の下に放置するのは、気が引け、ゆっくりと近寄った。
「どうした?なんかあったのか」
東藤が話しかけたが無言のまま。目を擦る事はやめずチリは意気消沈としていた。何かを話す気にはなれないらしい。
こんな夜更けに中学生が家から抜け出して歩いているのは普通ではない。
家出か、追い出されたか、どちらかは分からないが放っておく訳にいかなかった。
「理由は他人の俺でも言えない?ちょっとだけ話す気とかないか」
悲しみは伝わらないけれど東藤は出来るだけ同じ目線になろうと、チリの前に屈み、刺激しないよう優しく話しかけた。
そのお陰もあってやっと、チリは東藤の目を見る。
どれだけ泣いたのだろうか、目はパンパンに赤く腫れ、袖は沢山の涙で濡れていた。
「兄弟喧嘩でもしてきたのか」
チリは首を横に振る。泣いている理由を決して口にはしないが、言葉に反応してくれるだけ前進した。
「もしかして、家には帰りたくない」
そう訊くと涙に濡れる顔を俺に向けて頷いた。
「俺の家に来るか。親なら居ないから、泣き喚いても大丈夫だけど。どう?」
家に帰れない理由は知らないけれど俺の所に来るかと問えば、チリは東藤の服の裾を冷たい指先で引っ張っては頷いた。
この事を千紗に連絡するかと携帯を取り出しつつ、チリを淡々と家まで案内する。
家の帰り道、チリは涙で地面を濡らし鼻をグズつかせては、俺の裾を掴んまま後ろに着いてきてた。
その光景がどうしても親に泣きつく子供の様に思え、悟られない様に俺は小さく笑う。
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