7話

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「まず、冷たい体を温めるためにも風呂に行って来い。服はこっちでどうにかするから」 脱衣所にチリを押し入れた。その間も何も声に出さず、大人しくチリはお風呂に入る。 異常なまでの辛辣な顔、それが取れるまでは時間が掛かりそうだなと、東藤は服を取りに行く。 綺麗な服はないか。タンスの中を探っていると丁度、千紗から連絡が返ってきた。 『そっちに行く』 焦ったような返信は千紗は必死に探していたのだろう。 身内が来てくれるのは嬉しいのだが、なんとなく今、千紗とチリを会わせない方がいい気がした。 そう思ったのは、前に喧嘩を見たからだ。 よくある兄弟喧嘩ではあったが、互いに意見を言い合って堂々巡りを繰り返していた。 どちらも引く気は一切なく、どちらとも自分を分かれとも言わん状態。 それが尚更続いているのなら、この混乱した状態で会えば言い合いを始めるかもしれない。 余計に亀裂を深める形になるのではないかと、俺は携帯を徐に取り千紗に電話した。 「あっ千紗」 「東藤かっ、なに。今そっちに行こうと準備してるところ」 「ちょっと話があるだが、一旦こっちに来るのは待ってくれるか」 「えっなんで」 「今、弟君の状態があまり良くなくてな。ずっと落ち込んだままで返事が無いんだ。何かあって家から飛び出てきたらしいし、今帰る事は辛いじゃないかなと思って」 「……」 思い当たる節があるのか千紗は少しだけ黙ってから頷いた。 「……うん、そうなのかもしれない。僕も今チリを連れて帰るのは良くないと思う。東藤には迷惑かもしれないけど、一日だけ良いかな。母さん達にもそう伝えるよ」 「いいよ、人が来るのなんて慣れてるし」 「なにそれ、自慢」 「かもな、また明日連絡する」 「ありがとう、明日行くよ」 電話を切る。明日の朝に向かいに来てもらう事にした。 家族に許可をもらった事だし、安心して服を届けることが出来る。 千紗の弟といっても、たまに会う中学生、夜に連れ込むのは、いけない事をしているようで内心実はハラハラとしていた。 なんだろうか、女の子を初めて家に呼んだ感覚ではない、人を騙して悪い事に手を染めようとするような、なんとも言えない感覚が渦巻く。 何故か、千紗にごめんと謝りたくなるのは何故だろうか。 考えるほど、思考が気持ち悪くなる気配がしたので、脱衣所に服を急いで届けた。 * ソファーでゆったりと待つ東藤。そして風呂の扉が開く音が聞こえ。 「ありがとう……ございます」 風呂から上がってきた、チリの最初の言葉だった。言いづらそうに言葉を詰めたが、決して嘘ではない彼の本心である。 「それはどーも。気分は大分晴れた」 「はれっ晴れました……」 潤んだ目、此方に向ける顔はまだまだ暗く落ち込んでいた。 「うん、晴れないようだね。別に嘘なんかつかなくてもいいよ。他人なんだからさ」 「他人……」 「別に気を張るような相手じゃないって意味。そんなに気を張らなくていいから。 立ち話もなんだから、こっちにおいで」 頷きはしなかったが、チリは横に来ては塩らしく小さく座った。着ている服が二回りほど大きくもあったのでチリの細く小さな身体はより誇張されていた。 そして距離は決して東藤の近くに来ようとはせず、ギリギリの端を座るところは警戒は解けていないようだ。
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