7話

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今は使われてない部屋。ダブルベッドが置かれている部屋に案内した。 使われていないといっても、ちゃんと掃除はしているのでホテルのような綺麗な部屋ではある。 「ここが君の寝るところ」 「東藤さんはどこに」 「俺はもちろん自分の部屋で寝るけど」 「そうですか」 何故か、落ち込んだように声のトーンが下がったチリ。 1人で気落ちしていたこともあって、また1人になる事が少々怖いと見受けた。 「もしかして、一緒に寝てほしいのか。なら仕方ないな。 甘えん坊な子には俺がずっと抱きしめて寝てやるよ。離しって言ってもやめないからな」 そこまで言うと、チリはカッと血が上るように赤くなり俺を部屋から閉め出した。 「いらないですっ!」 「そうか、残念だ」 恥ずかしそうに大声を上げた。声が張れるほど、元気にはなったらしい。 明日には自分の家に帰れそうだなと安堵を覚え、自分の部屋に戻ろうとした。 すると、『あの』と呼び止める声と共に閉め切った扉が少しだけ開く。 「今日はほんとうにありがとうございます。めっ迷惑かけました、すいません」 弱々しく呼び止めるから深刻な話だと思ったら、ただのお礼だった。 ほんと真面目だな。俺は隙間から手を入れて、またチリの頭を撫でる。 「別にいいよ。迷惑なんて思ってないから気にすんな。お節介したくなっただけ」 「それでも、ありがとうございます」 徐にチリの額を東藤は指で弾く。 「痛い」 赤くなった額を労るようにチリは手で覆い、弾いた相手を睨んだ。 すると東藤は笑い出し。 「ありがとう禁止な。俺が勝手にやった事だからな」 「でも……ううっ」 また言いそうになるチリは、言いつけを守って頑張って口を塞ぐ。健気で可愛いことだ。 戯れるのは良いが寝る時間を削るのはよくないと、ここはお開きにすることにした。 「もういつでも話せる仲なんだし、今日のところは寝るは」 「うん」 「また、明日な」 「あした」 ゆっくりと扉は閉じられた。 チリはその1日だけ泊まり、次の日には涙を拭いて気を取り戻しては、『ありがとうございました』と頭を下げて家に帰った。 後日の昼、千紗に事情を訊けば、受験に失敗したらしく、その事で親戚にあれこれと千紗とチリ比較しては最終的にメガティブなこと言われたらしい。 それが原因で家を飛び出して落ち込んでいたと千紗は言う。 何も知らないくせに勝手なこと言うよねと怒るが、それだけではないと何となく理解した。 何故、チリがあんなにも頑なに出て行った事情を話さないのか。 思うに、それは口に出せない感情が渦巻いていたのではないかと思う。 もしかしたらそれは兄に向ける嫉妬かもしれないし、親に向ける復讐心もしれない。 チリは話さなかったから、全て妄想でしかないが。 血の繋がった親、兄弟でもそれはチリの中でしか答えは分からない。 誰かと誰かが理解し合うのは難しい、人は嘘つきばかりだから俺は知っている。 ずっと側にいても、結局思うようにピースは当てはまらないないなんて可哀想だなと、俺は紙パックのジュースを飲みながら考えを巡らせた。 こんなものは所詮、他人事だと、思っていたかった。
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