8話

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椅子に座り雑誌開く。 字が追えなくなってきた俺は読んでいた雑誌を机に投げた。その雑誌の表紙には人気俳優に独占インタビューとでかでかと載せられ、隣に本性が今あばかれると誘い文句が添えられていた。 それを見た[[rb:東藤> とうどう]]は鼻で笑う。 嬉しくも悲しくも毎日眠る間もない忙しい日々が続いていた。 きっかけは単純なもので脇役で出ていたドラマが好調で初めて見る新顔は誰だとメディアに注目されたわけだが、この身で初めて感じるほどの忙しさに煮詰まりを体験していた。 ストレッチで体を伸ばしつつ東藤はおもむろに机にある携帯を手に取る。携帯には沢山の人から通知はきているが期待していた名は映し出されなかった。 あの日チリに好きなのか問い詰めてから、連絡が付かない。 当たり前だ。 知らない女とあんな気まずい所を見せつけられて、知り合いだったとしても普段通りに連絡はできないだろう。ましてや想う相手なら尚更、話したいとは思えないだろう。 気まずい理由も分かっているけど、日に日に心は焦りチリの連絡を待っている。こんなにも誰かが離れていくのが寂しいのは初めてだ。 最初は千紗の弟という認識だったはずなのに、距離が近くなるたびチリの色んな表情が見たいと心が動かされ重くなっていった。 自分でもどうしたらいいのか、よく分からない感情が渦巻く中、酔ったチリが知らない男と抱きつくのを見て、初めて相手の男に嫌悪を抱いた。嫌悪している自分がいると気が付いた時は何を想っているのだろうかと驚いた。 側にいて欲しい、離れては欲しくない。 勝手だと分かっているが一言でもいいから声が聴きたいと、なんの役に立たない携帯を手にするたびに喉が枯れるような虚しさが積る。 「元気ないですね」 心配そうに東藤の顔を伺うのはマネジャーの美佐川 だった。普段は優しい女性だが、キリリとした眉は意志の強さを示し、皺一つないスーツを難なくと着こなす姿は硬派な女社長を彷彿とさせる。 本当に仕事ができる切れ者の女性なのでほぼ間違いはほぼない。新人の頃からだらしない俺をぐいぐいと引っ張ってくれるのだから。彼女が居なければこんなにも忙しい体験は出来なかったのだろうと。 「元気ないように見えますか」 「最近特に。もしかしてハードスケジュール過ぎましたか。詰めすぎている思っていたところなので改めて事務所で日程を見直してきますね。」 「いいですよ。俺が詰めてくださいって言ったんですから」 「大丈夫だと言っても、働き過ぎは毒です。そんなことで倒れられても困りますから戻って調整します。」 きっぱりと突き放した美佐川は、服のポケットから手記を取り出しては変更することを書き出し始めた。 そんなにも自分の顔色は悪いのかと東藤は机に置いてあった手鏡で確認するも、何ら変わりないいつも通りの顔が映る。 きっと連日の働きもあり疲労で沈んだ顔をしていたのだろう。 「これから映画という大仕事が待っているんですから、くれぐれも体調には気をつけてくださいね」 「はいはい、分かりました。」 「返事は一回」 母親の様な事を言うマネジャーである。 倒れるほど無理をするなんて、我慢が得意なチリじゃないだからふと思う。 そう思えば、チリは我慢が得意だった。どんなに痛くても引き裂かれても顔色変えずに普段通りにこなしてしまうところがある。 だから見ていたとしても、分からない時がある。いつも通りなのか、違うのか。 いいところでもあるが悪いところで、他人から見れば強く耐えていると思われるが、感情を押し殺して我慢しているだけであって、きっかけがあると風船みたいに破裂する。
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