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せっかく来たから覗いていかないってお誘いしたけど、迷惑になるからいいって断られて残念だったわ。あの顔なら」
美佐川は一人納得し、話についていけない東藤は呆然と口を出せずにいた。そんな友達誰一人として思い浮かばないからだ。
「美佐川さん、誰の話をしているんですか」
「えっと、ほら、大学生ぐらいで猫っ毛で灰色がかってる茶髪の男の子。これくらい背で容姿も性格も静かで落ち着いててクールって感じの子。
あっ、この前勝手に居酒屋出たでしょ。その時私が怒りの電話かけたら、出てくれた人だったはず」
「えっ」
「時間があったらもうちょっとお話したかったけど、そう思うとわざわざ来るぐらいだから急ぎの用だったのかな。
そわそわしてたし」
連絡来てないのと心配な声を上げる美佐川。
東藤は緩んでいた上体を起こして立ち上がる。
突然の動作に美佐川はビクリと肩を揺らしどうしたのか尋ねた。
「美佐川さん、それいつぐらいにですか」
「えっ?いつぐらいって言ってもさっきだけど」
「そうですか、ありがとうございます。今日ってこれで終わりですよね」
「ええ、そうよ」
美佐川が言い切る前に東藤は鞄を持って、控室から颯爽と飛び出した。
「ちょっと東藤君!」
「すいません、後のことよろしくお願いします。お疲れ様です!」
足早の東藤を呼び止めるには遠く遅すぎ、いない廊下に虚しく手を振るしかなかった。
「まったく話聞いてないだから」
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