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カーテンの隙間から朝の光。
頭が痛い。
昨晩の酒のおかげでチリの頭はガンガンと脈を打つ。
カクカクと間接が軋む体をゆっくりと起こせば、そこは整理整頓された清潔感のある部屋が広がっていた。
広いベッドにシミのない綺麗なシーツに、無駄がなく整えられた、ベッドだけの寝室。
何度か来たことがあるから、ここが紛れなく東藤の家だ。
なんで、ここにいるんだ。
確かあの後、だいぶ酔ったからスタッフルームで休憩したはずなのに、何故か俺は東藤の家で寝ているのか。
まだ夢の続きでも見ているのか、俺は頬を引っ張った。
「いたい」
頬しっかりと痛む、夢ではないようだ。
「チリ寒い」
「えっはい、ごめんなさい」
チリの横でモゾリと何が動く。それに寒いと言われたのでチリは素直に布団をかけ直す。
頭がパニックになっていたのでチリは状況を理解出来なかったが、どんどんと時間につれて事態に理解が追いついてきた。
昨日の夜、バーで別れた筈の東藤とベッド中で何故か一緒に寝ている。
「東藤さん、あのー」
「なに?」
「状況が飲み込めないというか、休憩室で休んでたような」
「……そんなの後でいいだろ。起きるまでまだ時間あるんだし。」
腰を掴むと東藤はチリを布団の中へと引きづりこむ。
「おやすみ」
チリを抱え込むと眠そうな瞳の東藤は、あくび一つして再び瞼が降りていく。
「えー」
チリの反抗も虚しく。腰はしっかりとした男の腕で固定され、足は絡め取れ身動き一つできないチリ、東藤が目を覚ますまで虚しく待つことにした。
目が冴えて何もすることがないチリは唯一動かせる手で東藤の髪を触れる。
柔らかくて、そして真っ黒で艶や髪は何にも染まらないこの男を引き立たせる。
東藤を触れているのは自分だけ、今だけだと分かっているがそう思えるだけで胸の中は高揚感で満たされた。
こんな少しの事で喜ぶ自分が情けない。
本命じゃないと何度か言い聞かせて、諦めようとしたのに、なんでだろうか。
やっぱり、この人が好きだ。
この人にとって慰めるだけの俺の代わりなんていくらでもいると知っている。
東藤が手を伸ばして呼んでくれた、救われたあの時から俺にとってのこの人の代わりはいない。
きっとこの先、何があってもそれは変わらないだろう。
「チリ、どうした?」
布団の中で目を瞑り幸せそうに微笑む東藤。
甘くて優しい人。その顔を一体何人の人間に向けたのだろうか、そしてどれだけの人の心を奪って魅了したのだろうか。
俺はその中のきっと幾人。
それでも
「なんでもないですよ」
棚の上に置いてある俺の知らない口紅は嘲笑った。
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