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けど本当に欲しいものを見ようしない、長年のつまらない答え合わせを繰り返している間に時間が経ちすぎた。
本当に欲しいものを今、自ら手放した。
「やっぱり俺の事嫌いになったか?」
「いいえ、それは絶対にありえない事です。何があっても貴方の事は好きです。だから東藤さんが良いなら何度だって話しかけますし連絡もします。」
「何言ってるかのか、分かんないだけど……」
「許されなくても大丈夫です。俺が居なくても大丈夫ですよ。東藤さんは強いから。」
チリは目を細めて笑う。どこか諦めたような悲しく痛々しい表情が見ていられなくて、俺はチリの顔を隠すように抱きついた。
「あの」
腕の中で戸惑っている事とも気にせず、強く抱きしめた。
怒ってくれもしない、期待することを諦めて少しの隙も作らないチリ。
今頃自分の言葉を伝えても全てが偽りになると知った。
初めて自分の愚かさを知った。
「ごめん」
「謝らないでください、東藤さんを何も悪くないですから」
「ごめん、ごめん」
甘やかす者は『いいよ』と優しく笑いながら、終わりを告げる。
自分は一体何を懸命に守っていたのだろうか、今頃なんど謝ったところで無駄だ。
チリの中の一番にはなれないと知ってしまったから。
誰かの『好き』を信じられなくなったように、信じてもらう事はできない。
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