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「幽霊は霊界で転生の受付をします。転生の順序や条件には基本的に生前の行いが反映されます。私の番は、気が遠くなるほど遅いんです」
佐久子はため息をつき、項垂れた。
「ただ日々を浪費し、転生の順番を待つのはあまりに退屈です。娯楽がないなら、生み出せばいいじゃない。そう考えた先人の幽霊が編み出した遊びが、現世に赴き、気まぐれに人間を驚かすという暇つぶしです」
「めちゃくちゃ悪趣味やな、おい」
人差し指を立てながら雄弁に語る佐久子に、那月は少々呆れながらも突っ込んだ。
佐久子の持つ『完全幽霊マニュアル』によると、那月のように幽霊の姿形をはっきりと認識し、会話までできるのはレアケースらしい。大抵の人間は幽霊に気付いてくれないため、しょうがなく電気を消したり、ラップ音を鳴らしたりして、驚かすことが多いそうだ。
「今まで霊感なんてなかったのになあ……」
「私たち、波長が合うのかもしれませんね」
げんなりする那月に対し、佐久子は嬉しげに宣った。
「とにかく、初めての“暇つぶし”が成功してよかったです!」
「なんもよくないわ、心臓止まるか思ったわ」
「最高の褒め言葉、ありがとうございます。幽霊冥利に尽きます」
「褒めてへんけどな」
噛み合ってはいないもののテンポの良い会話に、佐久子が顔を綻ばせる。
「今日は満足したので帰ります。幽霊にも一応制約があり、動きやすいのは0時から4時の間なんです。私が新米の幽霊というのもありますが、それ以外の時間はどうも体力がもたなくて」
未だ事態が飲み込めない那月をよそに、佐久子はマイペースに話し続けた。幽霊になってから霊界に馴染めず孤立していた彼女は人と話すことに飢えていたのかもしれない。
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