不協和音症候群

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 母親が娘の異常に気づいたのは早かった。明らかに他の子とは違う特徴があった。突然泣き出したり暴れたり、あやせばあやすほど泣き叫ぶ。誰が見ても何か異常があるのではないかという異様な行動だ。  いろいろな病院で検診を受けたし心療内科や子供の病気に詳しい医者にも足しげく通ったが原因はわからず。最終的には何らかの障害があるのではないかという非常に曖昧なものだ。  娘が言葉をしゃべれるようになって話を聞いてみても言っている意味がわからなかった。  ただ共通して常に言っていたのは「いやだ」「しーっ!」 このことから何かが聞こえているのだろうかと思い、娘に起きていることを知るためにも様々な病院を渡り歩いた結果。 「非常に珍しい症例です。不協和音症候群(ディソネンスシンドローム)と言います」 「不協和音……?」 「世界の中でも百人もいないと言われているので一般的には知られていないですし、知っている医師もあまりいないでしょう。精神的なものではありません、特別な体質なのです」  医師の説明によると、人には音を聞き分ける後天的な能力として絶対音感や相対音感がある。音を聞いただけでそれが何の音なのかわかったり、どの程度音がずれているのかなど音楽家によく見られる能力で訓練によって鍛えられるものだ。  しかしこの体質は生まれつきその能力を持っており、音をすべて細かく「理解」してしまうのだという。音階の種類はもちろん、おそらく普通に聞こえるのではなく刺激の様に感じ取る。それがすべてごちゃごちゃと混ざり、頭が混乱する。体質者が少ないので、揃っているデータも少なく客観的に定義づけるのが難しいそうだ。
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