不協和音症候群

3/8
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 栗原真澄は周囲から聴力が特殊だという認識だ。耳が悪いのではない、良すぎるので音を抑える補聴器をつけている。普通の補聴器と違う形をしているので、イヤホンをつけていると勘違いされることはない。  性能がいいので皆気にせず過ごしてほしいという本人の要望もあって、特に腫れものを扱うような対応ではないがそれでも一人でいることが多かった。性能が良くても、教室のざわめきや部活の掛け声は、うるさい。  音楽室は防音仕様なので好きだ。音楽教師に許可をもらい、休み時間などはここで過ごしている。  誰かが歩いて来る音がした。振り向きもせず読書をしていると、音楽室に入って来たのは先日赴任したばかりの音楽教師だ。 「あ、ごめんなさい。誰もいないと思ってた」  彼女は真澄の顔を見ると、ああこの子か、という顔をする。同じ音楽教師から話がいっているのだろう。 「話しかけて平気かな?」 「大丈夫です。声の大きさもこっちで調整できるので普通で大丈夫ですよ」  音量の自動調整機能があることを説明すると新任教師、金森は安心したように笑った。  自分の体質を説明し、別にそこまで音に関して敏感にならなくても良いのだけれど、うるさい時とそうでないときの区別を他の人につけてもらうのは難しいから自分から人のないところを選んでいると説明した。ふんふんとうなずきながら聞いていた金森はこんなことを言った。 「要するに、いろいろな音がごちゃごちゃ混ざってそれを聞き分けてしまうという事よね?」 「まあ、たぶんそうですね」 「栗原さん、MIDIって知ってるかな?」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!