不協和音症候群

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 最初はドレミファソラシドから。次が一般的な曲。そして最後に聞いたのはいろいろな音が混ざっている、おそらく先ほど話があった絵を描いた音だろう。真澄が補聴器をしたのを確認してから金森は少々いたずらっぽく笑った。 「今思ったんだけど、栗原さんだったら今聞いた音を全部書くことができるのかな?」 「どうでしょう……ちょっとやってみます」  聞いた通りに黒い点を書いて音域を表していく。書き終わって絵を見ると目を丸くした。 「令和?」  描かれた音階は漢字で令和、だった。令和の文字に音を配置して再生するとあの音になるのかと驚くと同時に、少しだけ鼓動が速くなった。物心ついた時から大嫌いだった音が、なんだか……。 「やっぱり、栗原さんはこれを使えば音を書き出すことができるね。私たちが普段何気なく聞いている音、これを使えば知ることができる」  その言葉に、一瞬ぽかんとした真澄だったが、ポロリと涙がこぼれた。その様子に金森は慌てる。 「え、あ、ごめんね好き勝手いろいろ言って。もし嫌な思いをしたんだったら……」 「ち、違うんです。今まで本当に苦しくて、両親にも迷惑かけてるし、友達いないし。私一生こんな感じなんだって思ってたから……こんなふうに誰かと音を共有することができるなんて思ってなかったから」  泣きながら最後にようやく絞り出せた言葉、「嬉しいんです」  その言葉を聞いて金森は嬉しそうに笑った。閉じられていた世界が開かれたような、明るくなったようなそんなことを感じていた。  家に帰ってその話を両親にした。娘の笑った顔見るのは一体何年ぶりだろうか。キラキラ輝いて生きがいを見つけたと言わんばかりのその様子に、母親は目尻に涙を浮かべ父親もうんうんと何度もうなずいてくれた。両親はその教師に挨拶に向かい深い感謝を述べる。 「娘の人生そのものを変えるきっかけになったと思います」
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