不協和音症候群

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 なるべく娘に負担がかからないようにいろいろなものを削ぎ落とす引き算の考えで生活してきた。それは確かに娘を守る事にはなっていたが、それだけでは彼女の心が枯れていることに両親も気づいていた。でもどうすることもできない、そんな中で訪れた今回の話。  金森は教師になってまだ半月しか経っていない。かしこまった両親の様子に逆に慌ててしまい会話を噛みまくり、両親の笑いを誘った。  その後両親はこの症例の積極的な広報活動を始めた。NPO法人を頼り世界の同じ症状で苦しむ人たちに声をかける。言語がバラバラなので自動翻訳ツールを使いつつも英語ぐらいは話せるようになろうと二人で必死に英会話を習っている。  仕事や家事をするだけではない、他の目指すべきものを見つけた両親も生き生きして真澄は嬉しい限りだ。自分のせいで二人に暗い影を落としていると思っていたのでなんだか胸のつかえが取れた気分だった。  この活動を知った機材メーカーがノイズキャンセリング機能向上の研究開発に協力してくれないかと打診してきたのを皮切りに、著書やテレビやネットなどの記事を書いて母親は収入を得たりと家族全員の変化が著しくなっていた。 「雨の音って栗原さんにはどう聞こえるの?」  梅雨の時期になりなんとなく元気がない様子を察したらしい金森がそんなことを聞いてきた。 「雨音は嫌いです。人のざわめき以上にイライラする。相性が悪いんだと思うんです。だから雨が降る時は音量調整を最大限にしてます」  そこまで話して質問された内容に答えていないなと気づき、改めてどんな音に聞こえるのかを考えてみる。うるさいもの、としてシャットアウトしてきたので真剣に向き合った事はない。 「音が単調なんですけど、なんていうのかな。細く砕け散るみたいな音が何十何百も聞こえるんです。ごちゃごちゃに汚れた子供部屋みたいな感じ」  わかりにくい説明だと思う。同じ体質でない人に自分の聞こえたものをそのまま言葉にするのは難しい。しかしそれでも金森はその言葉を真剣に受け止め自分なりに噛み砕いて考えてくれる。 「難しいかもしれないけど、例えば自分にとって必要な音だけ拾っていう事はできないかな」 「拾う?」
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