Day 5

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 ズボンの左ポケットの中で、携帯が震えている。 「大高さん、さっきから鳴ってますけど、いいんですか?」  運転席からこちらを覗く東片の顔に、わずかに疲労の色が滲んでいた。  洸太は緩慢な動作でポケットを探り、鳴り続ける携帯をとりだして画面を見た。登録していない番号からだ。 「……もしもし、」 『洸太ちゃん?』  朝子だった。 『笠寺さん、目が覚めたんだけど……その、出て行っちゃった。止めたんだけどね、どうしてもって。車で出ていったの。体は大丈夫みたいなんだけど、心配で……』 「……そうですか。わかりました、連絡ありがとうございます」  聞こえていたのか、東片が困り顔でこちらを向いていた。 「笠寺さん、またどっかいっちゃいました?」 「そうらしい。」 「星崎さんを探すより、笠寺さんを探したほうが早いかもしれませんね。あの人を導いているのが星崎さんなのか山なのか知りませんが。あの人駒にしやすそうですからね。見るからに弱そうだった」 「弱いわけじゃないだろ。少し……気が滅入ってるだけだ。」 「それを弱いというのですよ。他人の付け入る隙があるんですから。  その点あなたは不思議ですねぇ。隙だらけに見えて、未だに山に連れ去られてないんですから。お祖母さんが呼びに来ても、ついて行かなかったんでしょう?」  あの晩見た祖母の幻覚や、意識の溶けていく感覚から洸太を引き上げたのは、静の声だった。  洸太、と呼ぶ、声。  静が守ってくれたのだろうか。 「なんにせよあなたは利用されづらい。これは幸運ですよ。誰かが正気でおらねばならないのですから。さぁ気を取り直して。」  東片は車をとばした。  目的地は猿藍だ。  狭い道をゆく車内で、洸太は窓の外を流れる景色を眺めた。どこもかしこも灰色の靄がかかっている。  国道に出た直後、珍しく東片のほうから話しかけてきた。 「――われわれのお仕事にご興味は?」 「……ない、」  それは残念です、と言って東片は笑った。 「このご時世、たいへん人手不足でしてね。ご興味があればぜひと思ったのですが。」 「生きた人間でもできるのか、」 「ふふふ。死んでないとだめですね」 「……、」 「そう硬い顔なさらず。いろんなものが会社から支給されるんですよ。まぁ普通に金銭も支給されますがね、一番はやはり、仕事で送った人間の魂です。おいしいんですよ」 「おいしいってお前、喰ったのか、」 「ええ、たくさん。それがうちの会社でドライバーをやる一番の理由です。  われわれと会社の契約はこうです――取った魂の九割は、御成約された神さまのもの。残りの1割は、ドライバーのもの。それぞれ好きにしますが、食べるやつが一番多い。  うちの会社は完全出来高制なんで、要領のいい同僚なんかは相当食いためてますよ。肌なんかツヤッツヤで」 「……、じゃ、先輩はお前が食べるのか、」 「一割ですよ」 「……、」  東片はカラカラと笑った。  車は神社の駐車場に入っていく。
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