Day 5

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 雨に濡れた駐車場には、黒い高級車が一台停まっていた。このあたりのナンバーではない。笠寺の車だろう。  車を降りる。雨は激しく、あたりは灰色に烟っている。  猿藍の森は水墨画のように彩度を失い、紫陽花だけが鮮やかな点描となって咲いていた。  駐車場を歩く途中、地面が小刻みに震えだした。 「地震……」  洸太が言った直後、雷が落ちるような凄まじい音が耳をつんざいた。稲光は見えない。  残響が尾を引く中、隣の山で白い煙が上がっているのが見えた。 「あらま。土砂崩れですかね、」 「……じいさん……、」 「はい?」  東片が怪訝そうに覗き込む。 「あそこ、孤塚だ。……じいさんの家がある」  体中に冷えた血が巡っていく。 「おや、たいへん」  洸太は携帯を取り出し、寿史の連絡先を探した。  いつもかけているのに、こういうときに何故か、画面の中でその名前を見失う。何度も連絡先を行ったり来たりして、ようやく見つけた彼の電話番号に繋ぐも、 「――、」  呼び出し音ばかりが虚しく響いた。 「東片、今からでも向こうに――」  震える声を、東片が制する。 「大高さん、今からでは何もできませんよ。われわれは神社に急ぎましょう。あなたにできるのはそれくらいだ」  彼は顎で道の先へと促した。  今戻ったところで、自分には何もできない。  何も。 「さぁ。」  白手袋の左手を差し伸べる。  洸太はその手を取り、参道へと急いだ。  迷路のように細い参道は、数日前と変わらず紫陽花が咲き乱れていた。禍々しいほどの青色だった。  その中を、二人で足早に進んでいく。  東片の歩みはしっかりとして迷いがなかった。 「四片タクシーの四片ってね、紫陽花のことなんですよ、ほら、がくが四片あるでしょう」  ひとりで変に気の抜けた世間話を始める。   「うちの社長、紫陽花が好きなんですよね。人を惑わすような色だし、そもそも花じゃないし、毒がある。まるで人を食ったような植物だ。星崎さんも、同じ理由でお好きなようですよ。縁がある」  シチダンカの、淡く慎まやかな花と金縁眼鏡が頭をよぎる。 「……おや、」  振り返った東片が怪訝そうな顔をした。つられて洸太も後ろを見る。  歩いてきた参道の坂道が、半分、茶色の水に沈んでいた。  立ち止まっているうちに水位はどんどん上がっていく。  思わず携帯を確認する。だが川が氾濫したという情報はない。  水はすぐそこまで迫っている。   「急がないと我々も沈みますね。さぁ行きましょう」  水に追い立てられるように、参道を進んだ。  
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