第5話 ドラゴンの味

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第5話 ドラゴンの味

ドラゴンを倒し、その場、持ち運びしやすように解体を始めた。 「今日はドラゴンメシだな。イチロウのとこだと肉というのだったかな」 「ええ。そうです」 この世界には肉という言葉もなかった。 一体どうやって会話を成立させてきたのだろう。 これも異国の不思議なところだ。 自分が異国の人間だというのに文化を持ちこんできてしまって、それが、流行というより、新しい言語として誕生させてしまって良いのだろうかと悩むときがある。 タイムパラドックスが起きるとは違うのだろうが、世界を歪ませてしまうかと思ったが長老はそんなことで世界が歪んだら、とっくに滅んでいると言ってくれたので、甘えている。 「おーい! イチロウー! 長老ー! 今日のドラゴンはすごいぞー!」 大きな葉で包まれた大きなドラゴンの肉を担ぎながらアマンダが大きな声で言ってきた。 「ははは。アマンダは全部が大きいなー」 ドラゴンの肉はいくら力持ちのアマゾニスたちでも全部は運べないようだ。 ドラゴンの身体の半分を解体すると、アマゾニスたちは、ドラゴンに合掌をした。 「あれは食料になってくれたドラゴンに感謝をしているのだ」 「それはボクの国にもありますよ」 『いただきます』は全国共通だ。 「残りの半分は置いて行ってしまうのですか?」 「ああ。あれは他の生き物に食べてもらう食べさ」 「なるほど『食物連鎖』みたいなものですね」 「食べる、食べられを繰り返せば生きていけぬからな」 ドラゴンという大物を取ったからさぞ、お祭りのようになるかと勝手に想像していたが、全員にいきわたるようにドラゴン肉を細かく解体するとみんなそれぞれの家に持ち帰っていった。 狩りは日常的に行われていたから珍しいことではなかったのか。 アマンダと数人のアマゾニスが俺にドラゴン肉の調理方法を見てもらうためか、わざわざ外で食べようと言ってくれた。 俺もこの村の一員になったからには狩りは無理でも調理くらいはできるようにならなければと思っていた。 いずれは専属コックの立場になりたいとも思ってる。 アマンダは葉っぱからドラゴンの肉を出し、調理を始めだした。 皮を剥ぐと鶏肉のような鮮やかなピンク色をしていた。 俺はその様子をジッと見ていると1人のアマゾニスが俺に近づいてきた。 この村では小柄な(といっても180cmはあるのだが)リズが小さく切られた肉を俺に手渡してきた。 「ドラゴン肉うまいぞ」 「え、でも、これ生だよ?」 「? うまいぞ?」 「そ、そうなんだ。じゃあ、いただきます」 恐る恐る口に入れると。 「お、うまい! なんだろう? お刺身? 魚のお刺身みたいだ」 リズは得意気になった。 「どうだ。お刺身みたいだろ! 次は焼いた肉も出すぞ!」 鉄の塊をハンマーで叩かれて作ったのか表面が異様にボコボコした鉄板で肉を焼き始めた。 「この鉄の板はアマンダが殴って作ったんだ! アマンダは村で一番力強いからな!」 アマンダは本当に強いんだな。 不思議なことにこの村にはスプーンやフォークがあるのは幸いだったが、箸が食事の道具にあるのだ。 大きめの太い箸でアマンダは肉をひっくり返している。 多分、俺の知ってるモノだとトングに相当するものだろう。 「イチロウ、いい匂いするか?」 アマンダ笑顔で言った。 「ああ。とてもいい匂いがする。今度、ドラゴン取ってきたら俺が料理するからな」 テーブルが用意され、俺は食器を並べる係として手伝った。 しかし、皿がデカイ。 この村に来てから、何度も食事をしているが皿がとにかく大きいのだ。 その皿に俺が食べる分をよそうとよく言えば高いレストランの高級料理みたいな雰囲気、悪く言えば背伸びした子どもが大人の食器にご飯を盛ってもらったように見える。 今回は皿いっぱいにドラゴン肉がドンッと乗っかっていた。 魚のお刺身みたいだった肉が焼くと牛肉ステーキにしか見えない。 「イチロウ、これかけると美味しいぞ!」 今日はやけにリズが俺に話しかけてくる。 話す機会があまりなかったから、俺的にも嬉しい。 「これは?」 「ドラゴンタレだ」 「なるほどステーキダレだな」 全員が席につき、食事が始まった。 リズから受け取ったタレを早速、かけて食べてみた。 「おお! 肉だ! ステーキだ!」 俺の反応にテーブルにいたアマンダたちはみんなニコリと笑い、皿の上に何枚にも重なったドラゴンステーキを平らげていった。
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