青くて醜いKの心臓

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「ママ。おてがみきてたよ」  ふくふくとした指につままれたつややかな桃色の封筒、その色を見た瞬間、私は悟った。 「……ママ?」 「ごめんね。ちょっと待っててね」  速くなる鼓動をなだめながら、おそるおそる封を切る。封筒と同色の便せんには宛名と同じ筆跡でこう書かれていた。 『僕の心臓を食べにきてほしい』  この一文の下には、海が見える病院の名前、それにKの名前だけが添えられていた。 「ママ、どうしたの?」 「……なんでもないわ」  あれから何年もたったというのに、Kは私のことを覚えていてくれた。そして私に心臓を食べる権利を与えてくれた……。 「なんでも……ないの……」  青くて醜い心臓を食べさせたいと思ってもらえること、それは私にとって究極の愛情表現だった。あの日、Kはなぜ私に心臓を食べてほしいのかわからないと言った。けれど私にとっての答えは今も昔も一つだった。だからこの手紙は私にとってKからのラブレターに他ならなかったのである。そして私の答えも決まっている。今も昔も、変わらない。  しかし心臓を食べる日が来たということは……そして指定された場所が病院ということは。 「……ママ?」 「なんでも……ないから……」  震える手で思わず我が子を抱きしめる。我が子の奏でる健やかな鼓動を全身で感じながら、私はそっと涙を流した。 「……明日、一緒に海に行こうか」  了
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