第一章 三上佑一の出会いと世界の日常

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 自衛官育成目的の指定学校や、日本国内のみならず世界にも名が知れている有名な指定学校のほとんどは、校内生徒による部隊編成が組まれている。運用方法や部隊内容に多少の違いはあれど、どの指定学校の部隊は練度と技術が高く、《NE》対処にあたることができる。 「レベルが高くて実績のある学校ならまだしも、部隊運用は難しいですよ」  全ての指定学校が部隊を編成している訳ではない。むしろ少ない。 「わかってる。特別教育機関に指定されている中学校が少ない中、銃を握る子達はだいたい高校からが一般的。三年間という時間が決められている中で、訓練と実戦を積ませるのは難しい」 「銃の基礎知識に射撃、分解、整備。基礎体力の向上。加えて一般教科も学びながら。実戦をしようにも、市街地の警備で《NE》に遭遇する確率は低い。かといって郊外で実戦を積ませることも厳しい」 「一年生で充分に鍛えたとして、残りの学校生活は二年。しかも三年生になれば進路に時間がとられる」  二年と少ししか活動できない学生で部隊を編成し、訓練したとしても、下手をすればその分の費用が無駄になる可能性がある。効率的にするには工夫が必要だ。 「そもそも、そこまでする必要がない。多くの学校が部隊を作らない理由はそれです」 「警備程度しか求められてないのに、それ以上の役割をこなせる為に予算と時間を費やし、少ない人材を酷使させる必要があるのか。あながち間違いじゃないからね」  子供達を危険なことに巻き込ませる必要はなく、前線は自衛隊に、後方支援は実力と資金と人材が多いハイレベルな指定学校に任せるべきという意見がある。  街の警備で適度に《NE》戦闘の経験を積ませ、卒業した先にまだ関わるというのであれば、その時は更に訓練と経験を積める進路へ。学校と保護者は、死なせたくないのが当然である。 「自分が通っている学校は、年間死傷者が必ず一〇人以上は出ます。入学直後から厳しい訓練を受け、《NE》戦闘に関しては右に出る学校がいないと言われている。それなのにこのザマです。編成してすぐ使い物になりませんよ」 「部隊運用の難しさは知っている。しかし、使い物に出来るようにしなければならなくなった。結果を出さなければならない」  寺井は残りの弁当をかきこみ、お茶で胃へと流し込んだ。  既に食べ終えていた佑一はお茶を飲み干し、思っていたことを聞いた。 「里林梨絵はどこにいますか?」  空容器をビニール袋に片付けていた寺井は、変わらない調子で答える。 「彼女は、次の授業で合流する」 「合流?」 「ちょっと事情があってね。自衛隊管理下にあるから普通授業の時は基地にいる。合同授業の時はなるべく参加させてる。と言っても、今は見学だけしか出来ない」 「そうですか」 「詳しいことはまた後にしよう。昼休みに入る。俺は午後の準備をする。迎えに来るから、まぁ気楽にしててよ」
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