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午後の特別教科授業。佑一と寺井、特別教科担当の教師二名と合わせた四人。二年生二クラスに三年生一クラス、合わせて三クラス分が大型バスに荷物を積んで出発した。着いたのは郊外の山林地帯。学校が買い取り、整備して巨大な演習場にしていた。
着替えたり荷物置き場となっている平屋の建物が二つ。射撃場としても使えるように柱と屋根だけの射撃ゾーン用の建物があり、その二〇〇メートル先には傾斜をつけた土壁が高く盛られていた。
生徒達の準備が整って集合。授業を開始し、午前と同じように佑一が自己紹介をする。寺井が説明し、そのまま授業へと入る。
装備の確認を終えた生徒達は、離れた場所に看板型の的を立てる。教師の号令で整列。先に二年生の一クラスが横に一列に並ぶと、イヤーマフを装着。教師が持つ機械のブザー音を皮切りに射撃を始めた。
「佑一君」
呼んだ寺井は一人の女子生徒を連れてきた。一六〇センチほどの身長。背中半ばまで伸びた黒髪が綺麗で、大人しそうな印象の顔立ちをした女子生徒だが、使い込まれたIARアサルトライフルを持ち、物怖じせず佑一を真っ直ぐ見上げて凛としていた。一目で訓練と実戦を積んだ実力者だとわかった。
「昼休みに話した部隊の話。彼女が隊長役を務める」
「普通科二年A組。古武栞です。ご指導、よろしくお願いします」
「三上佑一。こちらこそよろしく。あと、敬語じゃなくてもいいです」
簡単な握手を交わし、古武栞は微笑む。
「同級生が先生なんて不思議な感じ」
「それについては同意見です。仕事だから仕方ない。不満だろうけど我慢してください」
「そんなことないわよ。見た感じ、私より多くの経験を積んでそうだから。それに、授業中は仕方ないけど、私にも敬語はいらないわ。ね? 三上先生」
「からかってますよね?」
からかわれて困ってしまった。おそらく、今後もこうやってからかわれるのだろう。
「私のクラスの番がきたのでこれで」
小さく会釈した栞は駆け足で自分のクラスへ向かう。
二人のやりとりを見ていた寺井が口を開く。
「話せる人間が出来たのはいいことだ」
「先が思いやられます」
「すぐに慣れるさ」
呆れて溜め息を漏らした佑一は周囲を見回す。
しばらく探していると、演習場の端っこにいるのを見つけた。整備されていない木々の中で彼女──梨絵は小さく体育座りして本を読んでいた。その隣には、スーツ姿の女性が立っていた。
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