第二章 あなたの好きなものは何ですか?

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◇  試験を終え、佑一は寺井の運転する車で習志野駐屯地に来ていた。午後の予定がここであり、駐屯地入口で荷物を降ろす。 「それじゃここで」 「藤村さんに挨拶していきませんか?」 「自分はもう一般人だ。機密に関わる。今の俺には関わる権利はないし、知る権利はない」 「わかりました。送迎、ありがとうございます」  寺井に別れを告げ、佑一は駐屯地内を歩く。  敷地内にある比較的新しい建物がある。『自衛隊特別研究所』と簡素な名称のこの建物は、《NE》に関する研究施設でもあり、《NE》戦闘の訓練及び技術研究及び装備開発の施設である。  特別研究所と略称される研究所に入る。指紋認証に虹彩認証を済ませ、厳重にロックされた分厚い扉が開かれる。清潔に保たれた白い廊下を歩いていき、目的の部屋の扉をノックすると「どうぞ」と女性の声が聞こえた。  診療室のような部屋の主である女性は、オフィススーツを着て白衣を纏っていた。そしてもう一人、藤村がいた。手には小さなアルミケースを持っている。 「すいません。遅くなりました」 「かまわん。彼女は野崎静音(のざきしずね)二等陸尉。里林梨絵の担当官だ」 「知っています。学校で顔を合わせましたので」 「あの時はごめんなさい。まさか貴方が監視役とは思わなくて」  紹介された野崎静音は立ち上がり、佑一と握手する。 「早速で悪いが場所を変える。荷物はここに置いていけ」  部屋を出て廊下を進んでいき、一番奥の部屋へ。カードキーでロックを解除する。  部屋に入ると、センサーが感知して自動で電気が点いた。数脚の簡易椅子があるだけ。一方向の壁が大きな硝子板をはめ込んだ仕様になっていて、隣部屋の様子が見えるようになっていた。  部屋の中央にはベッドが一つ。そこに梨絵が横たわっており、近くに置かれている機械とコードで繋がれていた。 「里林梨絵はここで検査している」 「まるで収容所ですね」 「成功被検体とはいえ、彼女はエクシードプランtypeBだ。もしものことがあった場合を考慮した結果だ」 「人類に仇なすものを殺す為に生み出したものが、逆に人類を滅ぼしかねる。皮肉ですかね」
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