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三上佑一は戸惑っていた。
いつも通りの仕事を終えてやり残しがないか確認し、帰ろうとした時に気配を感じてアサルトライフルを構えた。
そもそも、高校生である彼が銃などという物騒な代物を持っていることがおかしい。だが生憎と、この世界では必需品になりつつあり、高校生が持つこともなんらおかしくない。むしろ普通だ。
佑一の足下に転がっている死骸。それは人間ではない。犬や猫などの動物でもない。動物ではあるのだが、それは人智を超えた生物。黒い皮膚に覆われた《NE》は、内臓と一緒に血と肉をばら撒いて死んでいた。
弾けるように飛び出た血肉は、佑一が持つアサルトライフル──HK416Dから放たれた銃弾によるものだった。《NE》の体内を切り裂き、骨を砕き抜いた弾丸による傷痕。一匹だけでなく、数十匹も撃ち殺していた。
全部殺した。確認は出来た。だからこそ、佑一は戸惑っていた。
《NE》と同じ気配を漂わせながら、こちらに日本刀のような無機質な武器を突き付ける少女と対峙していたことに。
夜中の封鎖された光がない雑居ビルの中。はっきりと見える少女は、色素を失ってしまったかのように白い肌と、腰まで伸びた白い髪。目元を隠すほど長い前髪の隙間から、金色に輝く双眸が良く見えた。華奢な少女は制服を身につけていた。この街にある女子校の制服だ。
強く抱き締めたら折れてしまいそうな細い腕一本で、軽々と日本刀の切っ先を向ける。否──それは形は日本刀のように見えるが、黒い刀身だった。刀身だけでなく、柄や鍔、腰の専用ベルトから下げている鞘は現代の武器に見合うかのように、美しくも無機質で、機械の部品かのようなデザインをしている。その刃には血が滴っていて、《NE》を斬ったのだとわかる。
「誰だ」
「だれ」
ほぼ同時に二人が問う。緊張が高まっていく。
「ここは作戦区域で一般人の立入は禁止だ。その格好で、迷い込んだ一般人じゃないだろう。所属は?」
「似てる」
「なに?」
「この子達と違う。でも少し同じ。私とも似てる。同じようで同じじゃない。貴方はなに?」
少女の発言に佑一の戸惑いは一層増した。自分のことを少なからず知っている。いや、自分と言うよりも自分の存在がどういったものなのか理解している。
どうすべきか悩み、対峙を続けていた佑一だが、少女の面影が引っ掛かった。
「──梨絵?」
記憶の片隅に押し退けられていたものを引っ張り出して思い出す。名前を聞き、遠い過去が蘇る。忘れてはいけない思い出が目に浮かぶ。
「梨絵なのか?」
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