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◇
私立鐘ヶ江女子高等学校。
佑一はタクシーから降り、仕事場となる学校を少し眺めてから歩き出す。学校に入り、来賓用下駄箱と通路があった。『来賓・ご用の方は押して下さい』という小さな指示板の下に、インターホンのようなボタンとマイク内臓式のスピーカーがあった。
『はい。鐘ヶ江女子高等学校です』
インターホンを押すとスピーカーから女性職員の声が聞こえた。
要件を伝えて待つこと数分。
「遅くなってすまない」
やって来たのは若い男性職員だった。優しい顔立ちで背が高め。細身だが体格は出来ており、身振りや足の運び方に隙がない。
「寺井尚人。よろしく」
「三上佑一です。よろしくお願いします」
男性職員──寺井尚人が差し出した手を握る。
「早速で悪いが一緒に来てくれ。校長が会いたがってる」
「はい」
寺井に案内される形で後ろを歩いていく。
「今は授業中でね。午前に普通授業、午後に特別授業を設定している。午後になれば賑やかになるんだけどね。ここが校長室だよ」
校長室に到着。寺井は素早く三回ノック。「寺井尚人。入ります」と今までの柔らかい調子とは一変して力強い口調になっていた。
「どうぞ」と中から聞こえた時、小声で「入室要領が染みついていてね」と苦笑いしてから入った。寺井に続いて佑一も入る。
教室半分ほどの広さの校長室には、両脇に本棚、真ん中に来賓用の腰の低いテーブルとソファーがあり、その奥に窓を背にする形で机がある。椅子に座っているのが鐘ヶ江女子高等学校の校長だとすぐにわかった。
「門倉正文だ。名ばかり校長と思ってくれて構わん」
校長の門倉正文はそう言って小さく笑う。
寺井よりも細く、白髪が目立つ。だが年齢は六一歳にもなるというのにまだ若々しい。髪を染めれば四〇代と言われても疑問には思わないだろう。
「三上佑一です」
「相当出来ると、藤村二等陸佐から聞いている」
「お二人は自衛隊関係者ということは把握しています」
「話は早い。務めを果たしてくれ」
「ありがとうございます」
「職員室で先生方に挨拶してから、寺井に施設内を見せてもらうといい。都合は大丈夫かね?」
「大丈夫です」
三人は職員室へ。授業中ということもあり、職員室に教職員は少なかった。佑一が簡単な挨拶をすると、小さな拍手で迎えられた。しかし教職員の表情を見ると、困惑していることがよくわかる。特別教育科目を教える人間が来ると聞いていたが、まさか子供が来るとは思いもよらなかったらしい。
挨拶を終え、職員室を出る。門倉は校長室へと戻った。
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