その8

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その8

 中学生だった頃のこと。  その日、吉田は浮かれていた。 「よっしー、楽しそうだね~。なんかいいことでもあるの??」  俺がそう聞くと、吉田は興奮のまま言った。 「アーツだよ!!楽しみでさあ、毎週見逃すわけにいかない…!なのにさあ、昨日親父が朝から釣りだって聞かないから連れて行かれて、昨日のアーツは録画だ!全く、釣りは土曜日にしてくれりゃいいのに…!だから帰ったら観るんだ!!」  吉田のことだ。  たぶん『見逃す』というんだから、テレビ番組なんだとは思うけど… 「“アーツ”?」  俺が聞くと、吉田は熱を入れたまま勧めてくる。 「カズキは早起きできないからなあ…。とにかく日曜、早く起きて観てみろ〜?人間模様と悪とのやりとりが、もうたまらない…!!ハマる!!」  吉田は興奮すると本当に肝心なことを言い忘れるらしい。  あれでは俺には、どんな番組かさえ分からない。  …仕方ない。朝は苦手だから俺も一応、録画予約してみよう…  そして日曜日。  昼前に起きた俺は録画予約したものを付けてみた。 『改造戦士 アーツ』  よく日曜朝にやっている、特撮番組。  この回は、哀愁漂う孤独なコウモリ男との対決らしい。  俺は思わずテレビを凝視する。 〜~~♪♪  …とりあえずコレは、連ドラ予約かな。  あとは前回までをレンタルか動画配信で…  俺はみごとに、吉田の勧めたアーツにハマった。
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