その16

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その16

 バレンタインもとっくに過ぎ、もうすぐホワイトデー。  好きな人もいない俺にはどちらも関係ない。  一人っ子の俺は、吉田みたいに妹でもいれば別だったかもしれないと、この時期にだけはチラッと思ってしまう。  ところが、吉田は最近毎日スイーツのカタログを見ているらしい。 「よっしーは最近ずっとそんなのを見てるなあ、妹さんにでもあげるの?」  俺は、真剣な顔で人気スイーツのサイトを見漁る吉田にそう聞いてみた。 「いやいや!トバ先輩がいいこと教えてくれてさ!」  吉田は目を輝かせながら俺に説明しだす。 「まず一番好きなキャラのゲームやディスクやCDなんかのグッズを、キレイにしたテーブルに置くんだ。それからその周りを華やかに飾ってだな、ポスターやチラシをすぐそばに貼る!それが全部済んだら、キャラにあげるつもりで菓子を供えるんだと!」 「えっ……はあ??」  聞いていた俺は吉田が何を言っていたのか全く分からず、思わず首を傾げた。 「…本当は女キャラ相手が良いらしいんだが、俺が好きなのはアーツやロボだしなあ……」  吉田は苦笑いで頭を掻きながら続ける。 「ホワイトデーでアーツに日頃の礼として、俺の好物のシュークリームをやれる!!……やっぱり駅前の『プラン』のシュークリームでいいかな!」  吉田は言い終わると立ち上がり、呆然としている俺に爽やかな笑顔で手を振り立ち去った。  ……あのトバ先輩、一体よっしーに何を教えたんだ??  でもたぶん、そういう意味じゃないと思うんだ…… ホワイトデーも、そういうものじゃない気がする……  吉田はおそらく興奮のしすぎで、トバ先輩の教えたたくさんの情報が混じったままだったんだろう。  そしてホワイトデー当日。  渡瀬と俺との三人の帰り道に吉田は宣言通り、“アーツ”のために『プラン』のシュークリームを買いに走ったのだった。
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