その21

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その21

 ある日、クラスメート数人と俺は好きなアーティストについて話していた。 「俺は◯◯が好きだけど」 「あ、良いよな!新曲聴いた??」 「△△もいいと思わねえ?」 「良いよな~!!PV観た!」 「何気にカズキは普通の歌を聴くんだな~」  俺は吉田とは違って、もちろんアニメやゲームの歌を歌わないアーティストの曲も聴く。  ……これで少しは俺までオタクっていう誤解が解けたよな……  俺はひと安心し、みんなと話を続けていた。  しばらくして、教室に入ってきた我らが吉田。  すると一人が吉田に話し掛ける。 「よっしーは?好きなアーティストとか居んの?」  吉田が重度のオタクなのは周知の通り。  しかし話し掛けたそいつは恐らく、このくらいの話題なら対等に吉田と話ができると思ったんだろう。  ……ああ、よっしーにソレは……  俺がそう思い苦笑いを浮かべたのもつかの間、吉田はまさに怒涛の勢いで語り始める。 「俺??俺はまずはシモさんだな!!今引退してるらしいからみんな知らないかもしれないけどな、彼は名曲多いんだぞ!?レコードの時代から九十年代まで歌ってた!!味のある声なんだ〜。昔の特撮の歌でハマってさあ〜! あとはミヤさんだ!!彼は八十年代からだな!今でも歌ってるぞ、挿入歌が多いけど!熱い歌もいいけどバラードは泣ける、何より心に響く!!『改造戦士アーツ』シリーズのもそのうち歌ってほしいなあ!! あっ、“アニキ”もいいぞ~!叫びがスパァァッと……!!」  吉田が名前を挙げたのは古いアニメや特撮の主題歌、挿入歌を歌うまさに重鎮の方々。  アニメや特撮を古いものから好むわけでもない現在高校生の俺たちにとって、そんなアニソン歌手の人たちに詳しいはずもなく…… (シモさん……??) (ミヤさんって誰だ?) (誰の兄貴!?)  みんなの顔は、明らかに呆気にとられて口が開いている。  吉田は自分にも聞いてもらえたせいかかなりの上機嫌で、ひとしきり語り終えたあとも笑顔が絶えることはなかった。  ……ちなみに俺は吉田の影響により、彼らの代表曲を各三曲ずつは挙げられるのだが。 (さらにちなみに、この作品の作者が“普通”語れるはずの年代は『九十年代』からです……)
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