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第1章 Seed《種》21
その日リリアスは、大学から帰って自室に入るより先に地下室の扉を開けた。天井のへりにぶら下がって懸垂していたテオが気づいて振り返る。
「よう。今日は登場が早いな?」
無言で診察机の上に荒々しくデイバックを乗せたら、椅子に座って膝を抱えた。そのなかに頭をうずめる。
「おい、どうかしたのか?」
ただならぬリリアスの雰囲気を察知して、天井からテオが心配そうに飛び降りてくる。膝の中でリリアスは重い口を開いた。
「今日解剖の実習で……気絶した」
数秒間があって、あろうことか爆笑が返ってきた。
「顔面真っ青で入って来て何が起こったかと思えば……き、気絶って!」
「ぜんっぜん笑い事じゃない! お腹開いて三秒で卒倒とか学校中のさらしものだよ!」
朝一でぶっ倒れ、一日潰してへばっていたら起きたときには全部の講義をすっとばしていたし、教授にはあんな派手な気絶初めて見たとか言われるし、帰り際に同じ授業を取っていた数人とキャンパスで目が合って吹き出される始末。散々だった。次の授業なんか一生来ないでほしい。
「おまえ、面白いなあ。昔っからそんな気質なのか? それとものっぴきならないトラウマがあったりなんかして?」
「こんなの、根っから生まれつきに決まってるでしょ。あだ名はここ十年ずーっと弱虫リリアスで通ってるんだから」
「そりゃ年季入ってんな。ちなみに何の解剖だ? 人族か?」
「……ぎ」
膝を抱えたまま小さく答えると、テオが聞き返した。
「ぎ?」
「うさぎ」
「ひ…っ…こ、呼吸がっ……」
「だから腹を抱えるな! むせるな!」
リリアスはデイバッグを床で笑い転げるテオに投げつけた。
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