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第1章 Seed《種》11
「熊さんは、お名前はあるんですか?」
「そりゃあるさ。テオフィル・ブラウンだ」
「テオフィル、さん」
「テオって呼べよ。友人にはそう呼ばれてる」
人型から察するに二十代半ばくらいで、明らかに相手の方が年上なのだが、そんなことはまるで気にしなさそうな気さくさがにじみ出ていた。
獣族はもっと獰猛で意思疎通が難しい人種だと思っていたのに、さっきから口調は明瞭だし、目の前で腹を見せあぐらを掻く姿は無害そのものだ。
「て、テオ」
「ああ、よろしくな」
テオは黒い爪の尖った右前脚を差し出してきた。
どこを握手したらいいかわからず恐る恐る指を一本握る。
綺麗なピンク色の肉球は触れてみると思った以上に固く、肉厚さも感じられた。
「ところで、なんであんなところで血流して倒れてたんですか」
「空獣軍のやつに運ばれて飛んでる最中にレニエ軍に攻撃されて、落とされちまったんだ」
「……裸で?」
疑わしげな視線を送ると、熊はひょいと肩をすくめてみせる。
「最初からなわけあるか。服は途中で獣型になった時、ビリビリに破けちまったんだよ。脚引きずってどうにか森を抜けようとしたんだけど、限界でくたばりかけてた。おまえに見つかってよかったよ」
「じゃあテオは、連合国軍の方ってことですか? もしかして、軍獣?」
陸続きで北に隣接しているレニエ国とHN連合は四十年ほど長い対立の渦中にあり、国際情勢は常に緊迫状態だ。
武力行使が国民にまで及ぶことはないのでくくりとしては冷戦とみなされているが、戦地というものが存在し、HN軍はレニエ軍と今も戦っている。
とはいえ分割占領ラインはここから遠く、戦争に関するニュースもこれまたメディアで見るのみなのでリリアスとしては実感がない。
こちらの驚きようを見て、テオは弾けるように笑い出した。
その反応が理解できないリリアスはバカにされている気がして、眉間に皺を作る。
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