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第1章 Seed《種》12
「そんなに笑わなくても」
「だっておまえ、いくつだ?」
「……十九です」
更に続く笑い声。
「もうそろそろ酒も一人で買えるのに! うら若きリリアス嬢は世の中のことを何も知らないんだなあ。こんな大柄の獣族が、何をやれると思う? サーカスで玉乗りか? それともスーツ着てデイトレードか? もしかしても何も、軍獣に決まってんだろ」
「どういう意味ですか?」
「おっきい獣族の職業は大体軍獣って決まりなの」
子供に簡単な足し算の答えを教えるような口調だった。
気がするのではなく完全にバカにされているのだが、反論はできなかった。
確かに獣族がどのように暮らし、どんな職業に就いているかなんて今まで生きてきた中で考えもしなかったのは事実だ。
「じゃあちっさい獣族は?」
「人族がやりたくない仕事」
「例えば?」
「言いだしゃきりねえよ。ゴミ集めとか、原子力施設の管理とか。いわゆるきつい汚い危険な仕事。まあ規模は違えど基本的には肉体労働だわな」
「なぜですか?」
テオはそれこそ芸を仕込まれた熊さながらおどけた仕草で両手を上にあげた。
「そういう社会システムだからさ。人族学校はお高い学費払ってそんなことも習わないのか?」
「一切習いませんでした……」
深刻そうに告げると熊はさっきより大きく笑った。
「な、何ですか」
「俺は今、おまえをむっとさせようとしたんだけどな。世間知らずな上に素直とくるか。筋金入りの箱入りだな」
意図がわかり、ようやく頬を膨らませてみたがもう遅かった。
「さ、とにかくもう準備してください。祖父が買い物に出ている間に、あなたを連れて街の近くまで移動します。そこからは自分でどうにかしてくださいね」
「そりゃなんねえな」
テオはコップを置いて腕を組んだ。
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