第1章 Seed《種》15

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第1章 Seed《種》15

 テオをかくまってから十日が瞬くように過ぎた。  最初こそいやいや承諾し、数日は一応警戒していたものの、食事を運ぶたび話をするようになり、あっけないほどすぐ打ち解けてしまった。  今では夕食が終わると宿題を持ち込んで自主的に地下室で過ごすようにまでなった。  階段の上り下りが年々苦手になってきている祖父は用事がない地下室には普段ほとんど足を運ぶことがない。  急に増えたリリアスの食事量には感心するのみで、地下室で内密に行われている獣族クマ科保護計画など勘づきもしなかった。  その日も宿題と食事を持ち込み地下室に入ると、テオは熱心に紙へと何かを書き込んでいる最中だった。 「よう。ちょうどよかった。見てくれ、俺の力作」  どこかから見つけてきた裏紙に鉛筆で顔のようなものが落書きされている。お世辞にも上手いとは言いがたい。 「何これ?」 「リリアスの似顔絵」 「えっヘター!」 「よく見ろ、大体特徴捉えてんだろ?」 「僕こんな頭ぐしゃぐしゃしてないし! へらへらした目じゃないし!」 「獣型で描きづらいんだっての」 「人型になったって大して上手く描けるとはこれ見て思えないんだけど…。急に絵なんか目覚めちゃってどうしたの」 「しょうがねえだろーやることないんだから」  こうしてすぐに仲良くなった原因はやはりテオにあるだろう。  リリアスは幼稚園から一貫性の私立に高校まで通い高貴な家柄の生徒に固められ育ったが、周りとの距離を感じながら大きくなった。  小さい頃から植物や園芸にしか興味がなく、誰の別荘が広いとか誰の所有する馬が早いなどという共通の話題に全く入れないでいたからだ。  しかしテオとする会話には誰かと優劣をつける内容は一切ない。  くだらないジョークを飛ばし、身のない話をするのが得意だ。とても話しやすかった。  そして何といっても、テオを介し獣族の生活を聞くのが興味深かった。  軍のこと、暮らしのこと。  一度も経験したことのない獣族世界の話はリリアスを魅了した。
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